Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

琵琶湖、ハスの夏

夏の琵琶湖を象徴する魚といえばハスの名前が挙がるのではないでしょうか。ハスは琵琶湖とそれに連なる淀川水系、および福井県三方湖にのみ自然分布する、オイカワを獰猛にしたような姿かたちの魚で、コイ科魚類では珍しいフィッシュイーターです*1。琵琶湖では毎年、6月ぐらいから普段湖内にいるハスたちが産卵のため流入河川に遡上します。個体数は多く、この時期の琵琶湖周辺であればどこでも見られるような魚なのですが、いざ水中撮影となると難しい魚だったりします。それはひとえに本種の泳ぐスピードが非常に速くカメラで捉えるのも一苦労なこと、また警戒心が強く容易に近づけないことによるものです。琵琶湖へは水中撮影のためちょいちょい通っている筆者ですが、実はハスのまともな写真は1枚ももっておらず、今年こそ美しい姿を写真に収めたい!とひそかにターゲットにしていた魚でした。
7月半ばに訪れたときは多くの川でヤナ(伝統的な定置網。川に遡上した魚を待ち受けて捕る)が仕掛けられており、漁業への配慮から川への立ち入りは制限され、水中撮影は難しい状況でした。一方でハスの個体数は多く、ヤナの直下にほど近い橋の上から観察すると川底を埋め尽くすほどの個体がおり、そこかしこで縄張り争いや産卵もしていました。改めて琵琶湖の魚の豊富さに驚かされるばかりでしたが、ここまで個体の密度が高かったのはヤナの設置により遡上が阻害されていたことにも一因がありそうです。ともあれ水中撮影はできなかったため、この時は水上から縄張り争いの様子を撮影してきました。

オスの縄張り争い 琵琶湖流入河川 7月

次に訪れたのは8月の末。ハスの産卵期としては最終盤で、川にどれだけの個体が残っているだろうか。と心配しながらの現地入りだったのですが、最盛期には遠くおよばないものの、それなりに多くの個体を目にすることができました。やはり警戒心が強いので撮影は難しいですが、アプローチに工夫することで目の前まで来てくれることも。またうれしいことに今年はもう時期を逃したとばかり思っていた産卵シーンも観察できました。

琵琶湖流入河川 -0.5m 8月

産卵の瞬間

産卵場所は水深50㎝ほどの砂礫交じりの川底で、オイカワやカワムツと同様、ペアで身体を震わせ一斉に産卵、放精します。基本的にペアのみで産卵しますが、周囲のオスが産卵の瞬間に割り込んで自らの精子を受精させているときもありました。こうしたオスのいわゆるスニーカー行動はこれまでハスからは知られていませんでしたが、近年になって報告されているようです(今村ほか,2021)。ちなみに1回の産卵の継続時間は2秒から3秒ほどと短いのですが、産卵が始まった瞬間、間髪入れずに今まで離れた場所で泳いでいたスニーカーのオスたちも飛び込んでいき、しっかり放精しているので驚きました。運動能力の高さもそうですが、どうやって産卵開始の気配を察知しているのか… 産卵は同じペアで短い間隔で何度か行われるので、何の気なしに泳いでいるように見せかけてそうしたペアを見つけたら注意深く様子をうかがっているのかもしれません。

 

camera : OM-1(水上), E-M1 markⅡ
lens : ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD(水上)M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
strobe:D-200, D-2000

 

引用文献

今村 彰生・岡山 祥太・ 丸山 敦.2021.琵琶湖の魚食魚ハスの遡上と産卵に対する定置罠「簗」の影響.保全生態学研究,26: 3–13.

*1:しばしばコイ科で”唯一”のフィッシュイーターと言われるが、実際にはニゴイやウグイの仲間もよく小魚を食べている