
川での水中撮影を本格的に始め、紀伊半島南部の川へ足繁く通うようになった6年前の2019年、当時の筆者が一番見たかった魚が何を隠そうこのナンヨウボウズハゼでした。美麗種という言葉がぴったりの美しい配色に南西諸島以外ではなかなかお目にかかれない希少性。そんなハゼを近場で見れるかもとなれば、駆け出し水中撮影マンだった当時の筆者が憧れるもの無理からぬことです。しかし、時は黒潮大蛇行が始まってから1年ほどが経ったころ。南方から多くの熱帯魚を運んでくれるはずの黒潮が紀伊半島から離岸しており、本種のような熱帯性のレアなハゼが河川に加入するのはなかなか難しい状況になっていました。とはいえ紀伊半島は本種の分布の北限というわけでもなく*1、小型ボウズハゼの仲間の中では普通種寄りの本種ならば通っていればいつかは発見できるチャンスはあるだろうと信じ、毎年紀伊半島南部の川に通い続けました。そう、毎年、毎年、毎年、毎年、毎年、毎年…
・・・えっ!?一向に現れないんですけど!?!?!?!
その間、徳島で本種が採れ、高知でアカボウズハゼとハヤセボウズハゼとツバサハゼが現れ、千葉でオウギハゼが採集されetc…などありましたが、黒潮が遠い紀伊半島は見事にスルー*2。黒潮が遠いとこうもダメなのかと愕然とするとともに、本来のポテンシャルを発揮できないマイフィールドを不憫に想いながら悔し涙で枕を濡らしたのでした。
そもそも、この大蛇行はその期間の長さも異常でした。これまでの大蛇行の期間はせいぜい1年か2年、長くても4年程度でしたが、今回の大蛇行は3年が過ぎ、5年が過ぎ、6年を過ぎても終了する気配すら見えず、気付けば観測史上最長の7年が過ぎていました。こうも長いと異常も日常。黒潮が遠い状態にも慣れっこになっていましたが、終わりとは唐突にやってくる…そして呆気ないものでした。
今年の4月下旬に紀伊半島沖で蛇行していた黒潮流路の一部が渦としてちぎれ、その余波でこれまで離岸していた黒潮が紀伊半島に近づき始め、それから1か月ほどで半島南端の潮岬をかすめるような流路で黒潮が流れ始めました。これにより大蛇行は終了した可能性が高いと発表され、先日の8月29日に気象庁は正式に大蛇行は終了したと発表したのです。
大蛇行が終了したとなれば俄然気になるのが紀伊半島への熱帯性魚類の加入状況です。もちろん黒潮で南方から運ばれてくるのは仔稚魚の段階のため、大蛇行終了の影響が見られ始めるとしたら加入した仔稚魚が成長する夏以降になると考えられます。そしてこれまでの観察例から紀伊半島の川でナンヨウボウズハゼ属を探すなら秋でした。
ということで(壮大な前フリ)、今年こそナンヨウボウズハゼの撮影を!と意気込んでこれまで何度も撮影に行った半島南部のとある川を訪れたのですが、あっさりとオスを見つけてしまいました。いかにも本種が好きそうな、流れが緩やかで日当たりのよい礫底でぴょこぴょこ跳ねている姿を見たときにはようやくか…という思いで感慨深いものがありましたが、黒潮が戻った途端これかと拍子抜けする気持ちも。大きさは成魚サイズの3cmほどで、河川に加入して数か月でこんなに大きくなるのかという疑問はありますが、幾度となく通ったこの場所で本種を見逃すはずもないので、恐らく今年加入した個体なのでしょう、たぶん。


しかしながら、川での水中撮影を始めたばかりの頃ならともかく、今となっては沖縄や奄美で何度も本種を撮影しているため、感動は割とすぐに薄れて冷静になってしまいました。綺麗なんですけどね~。ただ、沖縄だとカワヨシノボリぐらいの密度でいるし・・・。7年も待たされたのですから、景気よくコンテリやハヤセ、ヒスイくらい見させて欲しいものです、なんて言ったら夢見すぎ?罰当たり?人間の欲とはかくも際限がないものかと自らのことながら呆れますが、せっかく黒潮が戻ってきたのですから、ここは他のボウズハゼの仲間も狙いつつ、あっと驚かせる写真を撮ってみたいですね。
camera : OM-1
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
自然光