Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

紀伊半島の淡水魚図鑑No.28 チュウガタスジシマドジョウ

チュウガタスジシマドジョウ Cobitis striata striata

紀伊半島での呼び名:かわどじょう、しまどじょう(シマドジョウ属の混称)

紀の川水系 -1.0m 6月 

体側の黒色縦帯がよく目立つ美しいドジョウ。本種をはじめとしたスジシマドジョウの仲間は体側の縞模様が途切れず完全な縦帯をなすことが和名の“スジシマ”の由来となっているが、実際にはスジシマドジョウ種群12種のうち周年にわたり“スジシマ模様”なのは本種とオオガタスジシマドジョウ、ビワコガタスジシマドジョウのみである(ほかは繁殖期のみ完全な縦帯模様で、通常時は点列模様)。本種は典型的な“スジシマ模様”をもち、分布域が広く目にする機会も多いため、まさにスジシマドジョウの代表種といえるだろう。
瀬戸内海を囲む本州西部、四国北部および九州東北部の水系に分布しており、ギギやオオシマドジョウ、シマヒレヨシノボリといった他の淡水魚と類似した分布パターンをもつ。紀伊半島では和歌山県北部の紀の川水系のみ分布しており、これは本種の近畿地方における分布の縁辺にあたる。以前に比べると数が減ってきているとはいえ、本種は分布域も広く多産する生息地もまだ多いことから、深刻な生息状況の種が多いスジシマドジョウの仲間にあって唯一、環境省レッドリストで絶滅危惧II類の指定にとどまっているが(本種以外のスジシマは軒並み絶滅危惧IAかIB)、ここ紀伊半島ではそのイメージは当てはまらずかなり危機的な生息状況であり、和歌山県レッドデータブックでは絶滅危惧IA類に指定されている。紀の川水系では本流、支流ともに生息するがいずれも個体数は極めて少ない。和歌山県における本種の減少の要因としては水質の悪化や、河川と水田周辺の水路との分断、水路の改修が挙げられているが、特に本種は繁殖の際に氾濫原などの一時的水域を利用することがしられており治水を目的にした河川や水路の改修が本種の再生産を難しくしていることは想像に難くない。
紀伊半島では個体数が少ないこともあり、なかなか本種を撮影することができずにいたが、昨年、紀の川本流の中流域でようやく撮影の機会を得ることができた。自然下で観察していると警戒心が強く、近づいても砂に潜ることはあまりせず、たくみに中層を泳ぎ回って逃げることが多かった。同じドジョウの仲間でもアジメドジョウを思わせる行動で、飼育下ではのんびりしている彼らからは想像もつかない非常にアクティブな行動で驚かされた。

オス個体。繁殖期は縦帯がより濃くなる

やや若いメス個体。繊細な印象

紀の川水系産(上:オス、下:メス)