Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

コウライオヤニラミ

コウライオヤニラミ 大淀川水系 -1.0m

宮崎県大淀川水系で撮影したコウライオヤニラミです。本種はその名のとおり朝鮮半島原産の2017年に初確認された新顔の外来魚で、現在この大淀川水系のとある支流でかなり繁殖してしまっています。
日本のオヤニラミに比べると細長い体形で身体の地色は黄色っぽく、黒色横帯が目立ちます。なにより大きく異なるのはその生態で、在来のオヤニラミ抽水植物の影や流木などの障害物まわりをホバリングしていることが多いですが、本種はとにかく石が好きで根魚のように川底に張り付いていることが多いです。特に淵尻の大岩がごろごろしている場所では個体数も多く、そこかしこで見つかるという状態でした。性質は臆病ですが同時に好奇心も強く、潜っていると遠巻きにこちらを観察してきます。

大岩の周りを好む。まるで根魚。

実は5年前の移入が噂されていた時期に全く同じポイントに潜ったことがあるのですが、そのときは姿を捉えることができずに終わりました。それから5年、初確認からわずか数年でよくもまぁここまで増えたものだと感心するほどの個体数が定着してしまっています。当然ここまで増えると生態系に何かしらの影響が出てくるもので、5年前にたくさんいたヨシノボリの仲間を今回は1匹も確認することができませんでした。コウライオヤニラミは転石帯の水底付近を主なハビタットとするため、似たような環境を好むヨシノボリの仲間はすべて捕食されてしまったのかもしれません。また、大淀川水系には本水系固有種のシマドジョウ、オオヨドシマドジョウが生息していますが、底生魚である本種への影響も懸念されます。実際に大淀川水系におけるコウライオヤニラミの分布拡大の影響を調査した日比野ほか(2022)ではオオヨドシマドジョウがコウライオヤニラミの侵入以降大きく数を減らしてしまっていることが示されています。

コウライオヤニラミがどのように大淀川に侵入したのかは不明ですが、本種を含む大陸産のオヤニラミ属魚類は複数種が観賞魚ルートで流通しており、そこから飼育遺棄あるいは故意に放流された可能性も考えられます。本種のような温帯産の肉食性魚類は野外に放逐された場合、容易に定着し生態系に被害を及ぼす可能性があります。そして一度定着してしまえば駆除は極めて困難です。個人のモラルに頼るのも限界がある以上、こうした魚類の流通・飼育についても何かしらの規制が必要な段階にきているのかもしれません。

幼魚。個体数は多く見られた。

2017年に撮影したヨシノボリの一種。今回は全く確認できなかった。

camera : E-M1 markⅡ

lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO

strobe: D-200, D-2000

 

引用文献

日比野友亮・緒方悠輝也・松尾 怜・大衛亮正・小原直人・栗原 巧・斎木悠亮.2022.大淀川水系におけるコウライオヤニラミの分布拡大と推測される在来魚類に与える影響.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 16:18-24.