Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

紀伊半島の淡水魚図鑑No.15 イケカツオ

イケカツオ Scomberoides lysan

紀伊半島での呼び名:はりうお、なみのはな

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イケカツオ 和歌山県南部河川 -1.0m

「カツオ」と名が付くが、本物のカツオが属するサバ科ではなく、アジ科に属する。本種はインド-太平洋の暖海域に広く分布し、日本においては主に茨城県以南本州太平洋沿岸で広くみられるが、南西諸島以外では幼魚が多い。

本種は基本的には海水魚であり、筆者も過去に紀伊半島南部の漁港で目撃したことがあるが、今回、半島南部のとある小河川で本種を発見した。汽水域で皮膚病に罹っているボラが元気がなさそうな様子で川底に横たわっており、そのボラに付きまとうようにして泳ぐ2匹の小魚いた。はて?と思いさらに近づいてよく見てみると本種の幼魚であった。

本種の幼魚は他の大型の魚に随伴して泳ぐ傾向が強いが、これは本種の食性によるものだと考えられる。本種の幼魚は他の魚の鱗や表皮を食うスケールイーター(scale-eater=鱗食い)の習性をもつことが知られており(Major, 1973)、今回観察した個体もボラの表皮をそぎ取るようにして食べる様子がみられた。

 

 興味深いのはどうもイケカツオはボラの表皮の弱ったところから食べているように見えること、そしてボラが全く逃げようとしないことである。普通鱗や表皮を食われるということは被食者の側からするとデメリットでしかないが、病気の部分を取り去ってもらえるとなると話は別である。つまりイケカツオはスケールイーターの習性だけではなく、ホンソメワケベラのようなクリーナーの習性もあるのではないか?シマイサキの記事の時にも書いているがクリーナーとスケールイーターは他の魚の体表で摂餌を行うという意味では非常に似通った習性と言える。もしかするとイケカツオは相手によってスケールイーターとクリーナーの役目を使い分けているのかもしれない・・・もちろんこの一例だけではなんとも言い難いが、そんな可能性も考えてしまうような光景であった。

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ボラにぴったりと随伴して泳ぐ。随伴する相手への執着は強い 和歌山県南部河川 -2.0m

camera : TG-6, E-M1 markⅡ
lens : LUMIX G FISHEYE 8mm/F3.5
strobe:D-200, D-2000

 

引用文献

Major P.F. 1973. Scale Feeding Behavior of the Leatherjacket, Scomberoides Lysan and Two Species of the Genus Oligoplites (Pisces: Carangidae). Copeia. Vol. 1973, No. 1. pp. 151-154.