Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

ボウズハゼの幼魚

ボウズハゼ幼魚 紀伊半島南部河川 -0.5m

ひさびさのハゼネタ。

春から初夏にかけての紀伊半島南部の河川では加入したばかりのハゼ科魚類の幼魚が群れをなして遡上している様子をしばしば目撃します。ヨシノボリの仲間やウキゴリの幼魚も多いのですが、鰭の赤い色彩でよく目立つのがこのボウズハゼの幼魚です。

ボウズハゼの仲間といえば主に南西諸島でみられるナンヨウボウズハゼやルリボウズハゼのようにきらびやかな色彩をもつ種も多いですが、紀伊半島でみられるふつうのボウズハゼは何とも地味な茶褐色です(その代わりにデカくて、違う意味で見ごたえはあるのですが)。そんな彼らですが、幼少時代は美しい赤い鰭をもち、ナンヨウなどのキラキラ系まではいかないものの、観察者の目を楽しませてくれます。

興味深いのはこの美しい鰭の色彩は幼魚時代のほんの一時期にしか発現しないことです。河川加入直後の体色はほぼ半透明でわずかに横帯模様が入る程度なのですが、着底し底生生活に突入する全長3cmほどになると各鰭に赤い模様が現れます。しかしその後、全長4cmを超えるころになるとこの模様は消え、成魚とほぼ同じ地味なカラーリングになってしまうのです。赤い模様が発現し、また消えるまでの間はわずか1、2か月ほどではないでしょうか?なぜ本種の幼魚期にこうした色彩の激しい変化が起きるのかは不明ですが、ひとつの仮説として本種は餌の藻類をめぐって同種間で激しい争いをする習性があり、身体の小さな期間は大きな個体からの攻撃を避けるため、同種と認識されない派手な色彩をもつのではないか、ということが考えられます。成魚と幼魚で模様が違う例はキンチャクダイ科魚類などほかの魚でも知られており、特に縄張り意識の強い魚類では同種間の争いを避けるための仕組みとして機能しているようです。

・・・もっとも以上のことは筆者の仮説、もとい想像であり、ボウズハゼが本当にそうした理由で成長に伴い模様を変えているのかはわかりません。ただ、赤い鰭の幼魚が大きな個体から攻撃されているのをこれまで見たことがないので、個人的にはさもありなんと思っているのですが、どうでしょうか?

 

camera : OM-1
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-2000, Z-240