ボウズハゼ Sicyopterus japonicus
紀伊半島での呼び名;なんべら(古座川)【文献】ぼうずはぜ(田辺)、かわはぜ(橋本)、いわすい、なめら、ぬめり、いしもち、いしたたき、いわはぜ、いちかぶ、あいかりがぶ、ちちこ、のめろ、なめっこ、でこきち、ねこくわず、びくに、うろり、のぼりこ(稚魚)
吸盤状の口をもつ独特の顔つきで見た者に二度と忘れられない印象を与えるハゼ。この口で石などに張り付き、藻類を舐めとるようにして採食する。アユとは生息環境的にも食性的にも競合関係にあり、互いに縄張り争いを繰り広げている*1。そのため友釣りでたまに釣れることがあるという。動きは敏捷かつやや臆病なため手網での採集が難しい魚のひとつ。特に大型個体を手網で採ることは難しい。
本種は紀伊半島のほぼ全域に分布し、主に河川の中流域で見られる。清流と呼ばれるような水量が豊富で清浄な河川に多いが、半島南部に多い流程の短い極小河川にも数多く生息する。口と腹びれの吸盤を使いあらゆる障壁を乗り越えることのできる優れた遡上能力をもっており、和歌山県南部を流れる古座川の落差8mの渓流瀑「滝の拝」では毎年夏になると滝を遡上する本種の姿が見られ名物となっている。
本種は他のボウズハゼ亜科魚類と同様、一生のうちに海と川を行き来する両側回遊の生活史をもち、川で生まれた仔魚は速やかに降河し海洋生活に入る。海における浮遊期は150日から180日に及び、これは両側回遊性のハゼの中でもトップクラスの長さである*2。この長い浮遊期をもつために本種は分布拡散能力が極めて高く、また分布域内において単一の遺伝構造をもつとされる。
稚魚は春に河川に加入し、この時期の汽水域では頭を下に逆立ちするように泳ぐボウズハゼの稚魚をみかけることがある。これは漂う枯れ枝などに擬態し、捕食者の目を欺くための行動だと考えられている。浮遊稚魚は目立った色素をもたず身体はほぼ透明であるが、着底する頃になると独特の縞模様が現れる。また幼魚は背鰭に赤い模様が入り美しいが、成長するに従いこの色彩は消失する。
camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000