シマイサキ Rhynchopelates oxyrhynchus
紀伊半島での呼び名:すみやき(志摩、ほか)、しまいさき
その名のとおり体側を走る縦帯が特徴的なシマイサキ科の魚。津軽海峡から九州南岸までの各地で普通にみられる。本種は本科魚類の中では珍しい完全な温帯種であり、南西諸島には分布しない(久米島で琉球列島唯一の記録があるが、クルマエビ養殖の種苗に混入して持ち込まれた可能性が示唆されている(吉郷,2007))。
本種はしばしば河川の汽水域に侵入し、特に幼魚は純淡水域まで遡上することがある。上の写真も感潮域最上部のほぼ淡水の場所で撮影された。
河川のほか沿岸浅所にも生息し、定置網等で漁獲され食用として利用されることもあるが、まとまって獲れることが少ないためか、ほとんど雑魚のように扱われている印象。三重県志摩地方では“すみやき”と呼ばれていた。成魚の体色はやや黒ずむことがあるが、そこからの連想だろうか?味はまずくはないものの、淡白で味わいに欠ける。
本種そのものの水産資源的価値は高いとは言えないが、別の側面から水産業への利用が試みられている。他種の魚の外部寄生虫を食べ、掃除するクリーナーフィッシュといえばホンソメワケベラ Labroides dimidiatusが有名であるが、実は本種の幼魚もクリーニング行動をすることが報告されており(重田ほか,2001)、増養殖施設にて本種の幼魚を用いた飼育魚の寄生虫駆除の方法が確立されている(なんと特許も取得済みである)。クリーニングされる魚は本種に対しクリーニングを要求するポーズまでとるという(ちなみに筆者は本種のそのような行動を見たことが一度もない)。同じシマイサキ科のコトヒキ Terapon jarbuaが隙あらば他の魚の鱗や鰭を齧り取ろうとするスケールイーターであるのとはなんとも対照的であるが、他の魚の体表で摂餌を行うという意味では似通った習性とも言える。どちらがより祖先的な形質かはわからないが、本科魚類の共有祖先形質として他魚の体表で摂餌するという習性があり、そこからクリーナーあるいはスケールイーターがそれぞれ進化したのかもしれない。
camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200
引用文献
重田 利拓・薄 浩則・具島 健二.2001.瀬戸内海で観察されたシマイサキのクリーニング行動ーークロダイへのクリーニングを中心として.瀬戸内海魚類研究会報告.3.9–12.