Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

5月はサツキハゼの嘘

いきなりアニメオタク丸出しのタイトルで恐縮です。春が終わり、初夏らしい少し汗ばむくらいの陽気に移り変わりつつある今日この頃。カラッとした天気の中、海や川に入るとさぞ気持ちがいいだろうと思うのですが、3週続けて週末が雨という悲しい現実に直面しました。

この日は某水系上流域の新規ポイント開拓に行こうと思っていたのですが、連日の雨で増水し撮影どころではないだろうと考え、急遽紀南地方の汽水域で撮影することにしました(紀南に多い小流程の河川は雨が降ってもすぐに流下するため、増水の影響が出にくい)。5月ということで、ちょうど繁殖期を迎えているであろうサツキハゼが狙いです。

ドライスーツを着こんで潜ってみると早速サツキハゼの群れに遭遇。

f:id:oryza_818:20200524204209j:plain

サツキハゼの群れ 和歌山県南部河川 -1.5m

 

f:id:oryza_818:20200524205256j:plain

サツキハゼ 和歌山県南部河川 -1.5m

f:id:oryza_818:20200524205320j:plain

サツキハゼ 和歌山県南部河川 -1.5m

サツキハゼは一見地味なのですが、ストロボを当てると眼下から頬にかけての青色斑が美しく輝きます。実にいい魚です・・・。繁殖期ということでたまーにオスが鰭を全開にするフィンスプレッディングをしてメスにアピールしています。

f:id:oryza_818:20200524210213j:plain

サツキハゼの求愛行動 和歌山県南部河川 -1.5m

f:id:oryza_818:20200524210449j:plain

サツキハゼ 和歌山県南部河川 -1.5m

汽水域での撮影ですが、当然のことながら淡水と海水が混じり合う場所のため、ハロクラインが存在し、かき混ぜるとそれによる密度揺らぎが発生します。撮影においては本当にこれが厄介で、酷くなるとまともな像が得られないどころか、オートフォーカスすら効かなくなります。極力これを避けるため、海水の層以深に潜ってなるべく淡水と海水の間の境界を乱さないように心掛ける必要がありますが、スノーケリングでの撮影だと息継ぎのために浮上しなくてはならず、その度に揺らぎが酷くなるため、チャンスは一瞬です。本当はスキューバでずっと川底に張り付いて撮影すればもっといい写真が狙えるのでしょうが・・・

 

サツキハゼ以外にも様々な魚たちを観察することができました。ゴマフエダイなど死滅っぽい魚が平然とこの時期にいるのはさすが本州最南端といった感じか。

f:id:oryza_818:20200524213249j:plain

ゴマフエダイ 和歌山県南部河川 -1.5m

f:id:oryza_818:20200524213809j:plain

クロコハゼ 和歌山県南部河川 -1.0m

f:id:oryza_818:20200524213842j:plain

ビリンゴ 和歌山県南部河川 -1.0m

下流部ではクモギンポの姿も。タイドプールなどの岩礁環境に多く生息するという認識だったので、汽水域にも出るとは少し意外でした。秋に潜った時には見なかったような気がするのですが…。オオヘビガイの殻を住処にしてこちらを窺う様子が可愛らしい。

f:id:oryza_818:20200524213917j:plain

クモギンポ 和歌山県南部河川 -1.5m

 

f:id:oryza_818:20200524214228j:plain

クモギンポ 和歌山県南部河川 -1.5m

 

f:id:oryza_818:20200524215402j:plain

ボウズハゼ 和歌山県南部河川 -1.0m

また今回、以前から撮影したいと思っていたボウズハゼの幼魚の逆さ泳ぎを撮影することができました。この行動は海から遡上したボウズハゼが汽水域で淡水に身体を馴致させるためのものとされていますが、場所が場所なだけにハロクラインに阻まれ、今まで撮れなかった光景です(目撃自体は何度かしていた)。逆さになると何故淡水に慣れるのかはよくわかりませんが興味深い行動だと思います。

この河川はちょいちょい通っているポイントなのですが、この時期の汽水域に潜ったのは初めてでした。一般的に汽水域のベストシーズンは秋だと言われ、出現する魚の種数という意味でそれは間違っていないと思いますが、やはり各季節ごとにそれぞれの生き物の営みがあり、定期的に観察することの重要性を再認識しました。これから夏にかけて更に多くの魚たちがこの場所を利用するようになるでしょうから、まだまだ通い続ける必要がありそうです。

 

撮影機材
camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ,M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200