Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

和歌山のアブラボテ、最後の聖域

県内の移動であっても不要不急であれば控えるようにとのお達しの出ている今日この頃。全く自重できてない僕も一応気を遣って近所のフィールドに限って活動していたのですが、この日は珍しく県北部の和歌山市に行く要・急の用事があり、ついでに以前から狙いたいと思っていたアブラボテの婚姻色を撮りに行きました。

絶滅寸前、深刻な生息状況の種が多いタナゴの仲間にあって、アブラボテ、ヤリタナゴ、カネヒラの3種は比較的見かける機会も多く、まだまだ身近で一般的な淡水魚というイメージも強いのではないでしょうか?しかし、残念ながらここ和歌山ではそのイメージは当てはまりません。そもそも山がちな地形のためタナゴ類は県の北部にしか自然分布しませんし、その貴重な分布域には軒並み開発の手が及んでいるからです。またタナゴ類の産卵に不可欠なイシガイ類の生息状況も芳しくないという事情もあり、本県においては外来種タイリクバラタナゴですら希少種という悲しい現実があります。先に挙げた3種もアブラボテとカネヒラが県のレッドデータブックで絶滅危惧ⅠA類に、ヤリタナゴが絶滅危惧Ⅱ類に選定されています。

アブラボテに関しては県北部の2水系に分布するとされていますが、そのうちの一つ、紀の川水系では近年記録がなく、事実上、もう一つの水系が最後の生息地となっています。幸いなことにこの場所ではアブラボテの保全活動が行われており、比較的生息数も安定しているように感じますが、河道掘削の工事が行われるなど、安泰とは言えない要素もあります。

 

久々に訪れたアブラボテ生息地、さっそく潜って(というか水深が浅いので這いつくばって)観察してみると、かなり透明度が低い…。懸濁物が多い環境で、撮影の困難さを予感させます。しかもアブラボテはいるにはいるのですが、意外と警戒心が強くカメラを向けるとサーッと逃げてしまう… そこでひたすら微動だにせずじっと待って魚の方から寄ってきてもらう作戦に変更。そうするとこちらを危険な存在ではないと認識したの15分ほどで撮影可能な距離まで寄ってきてくれました。

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アブラボテとカワムツ 和歌山県北部河川 -0.3m

 

とは言えこの透明度の低い環境、撮影が難しいのには変わりありません。そもそもこのアブラボテという魚、体色にメリハリがないというかコントラストが低いので、なかなかカメラのオートフォーカスが効いてくれません(AFはコントラストの最も高いピント位置を「合焦」として検出するため、コントラストの低い被写体には効き辛い)。心の中でシロヒレタビラぐらいバキッとした体色になれよ…と理不尽な悪態をつきながら、合ってるんだか合ってないんだかわからないピント位置でシャッターを切ったのがこれらの写真です。

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アブラボテ 和歌山県北部河川 -0.3m

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アブラボテ 和歌山県北部河川 -0.3m

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アブラボテ 和歌山県北部河川 -0.3m

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アブラボテとカマツカ 和歌山県北部河川 -0.3m

 本当は「貝覗き」などの産卵に絡んだシーンも狙いたかったのですが、そもそも貝がどこにあるのか見当もつかないという体たらくなので、写真に収められるのはいつになるのやら。紀伊半島の東側、三重県では良好な生息環境が残されている場所も多いので、そちらで狙ってみるのも良いかもしれません。いずれにしても和歌山県唯一の生息地、いつまでも良好な生息環境が保たれて欲しいものです。

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まだ若いオスの個体。紫がかった婚姻色が美しい。2019年3月和歌山県北部河川にて

 

撮影機材
camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200