Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

論文が出版されました

拙著が魚類学のオンライン和文ジャーナルICHTHYで公開されました。オープンアクセスです。Twitterでも宣伝したのですが、こちらにも載せておきます。

 

和歌山県串本町から採集された北限記録のミナミフエダイ Lutjanus ehrenbergii

https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/ichthy/INHFJ_2021_006_038.pdf

 

内容としてはタイトルのまんま、串本でミナミフエダイが採れたよ!どうも北限記録みたい!以上。というお話です。

 

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ミナミフエダイ 論文で報告した個体と同一

ミナミフエダイ Lutjanus ehrenbergiiは西はアフリカ東岸から東はミクロネシアまでのインド-西太平洋の熱帯域に広く分布する魚です。その一方で本種の日本国内からの記録は少なく、これまでに八重山諸島石垣島西表島、そして宮崎県の日向灘からの記録に限られていました。

今回、和歌山県串本町の漁港から採集されたミナミフエダイも体長57.6 mmの未成魚で卵、あるいは仔稚魚の時に黒潮により南方から輸送され、串本沿岸に定着したものと思われます。近年串本をはじめとする紀伊半島の南部からこれまでに記録のなかった熱帯性魚類の出現が多く報告されてきており(例えば冨森・松沼,2020のナンヨウアゴナシや脇本・國島,2021のキテンハタ)、こうした魚類の出現状況とその傾向を調べることで魚類の分布拡散に黒潮がもたらす影響の解明に繋がるかもしれません。

以下、論文には書いていないことを補足します。論文で報告した個体は漁港内の岸壁で夜間に採集されました。串本の漁港ではクロホシフエダイニセクロホシフエダイ、イッテンフエダイなどの体側に黒斑をもつフエダイ属の幼魚をしばしば目撃しますが、そのいずれとも異なる大きく、正円形に近い黒斑をもつフエダイの幼魚を発見しため、おや?と思いタモ網ですくいました。当初からもしかしてミナミフエダイかも?と疑っていましたが、いかんせん今まで本種を見たことが無かったため半信半疑でスマホを片手にあれこれ調べてようやく本種だと確信しました。

本種は形態的にニセクロホシフエダイと最も類似しますが、ミナミフエダイの側線より上の鱗列は側線とほぼ平行に並ぶこと(ニセクロでは斜めに並ぶ)、眼をとおる濃褐色縦帯をもたないこと(濃褐色縦帯をもつ)、体側の黒斑は正円形であること(前後に長い楕円形)により識別されます。

本種は八重山諸島ではマングローブ帯や河口域などの汽水域で多くみられるようですが、今回の個体は上記のとおり周囲に河川等の淡水の流入のない漁港から採集されました。しかし、和歌山でもゴマフエダイやクロホシフエダイ、オキフエダイなどの他のフエダイの仲間は汽水域で多く見られることから、稀だとは思いますが本種もいつか和歌山の川で見られるのではないかと期待しています。その際にはぜひ写真に収めて”紀伊半島の淡水魚”としてここで紹介したいものです。

 

引用文献

冨森祐樹・松沼瑞樹.2020.和歌山県串本町から得られた本州沿岸2例目のツバメコノシロ科ナンヨウアゴナシの記録.Ichthy,Natural History of Fishes of Japan,1:22-24.

脇本総志・國島大河.2021.和歌山県串本町から得られた標本に基づく本州初記録のキテンハタ Epinephelus bleekeri.Ichthy,Natural History of Fishes of Japan,4:22-25.