Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

紀伊半島の淡水魚図鑑No.19 チチブモドキ

チチブモドキ Eleotris acanthopoma

紀伊半島での呼び名:【文献】ぼっかい、くえ(新宮)、ささぐり(太地)、かわあたがし(宇久井)かわぐえ(田辺)※いずれもカワアナゴ属の混称

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チチブモドキ 和歌山県南部河川 -1.5m

全長20cmに達するとされるが、よく見かけるのは15cmほどまで。紀伊半島では南部の汽水域でよく見られる。夜行性で昼間は岩陰などに隠れていることが多い。日本産のカワアナゴ属魚類4種(カワアナゴ、テンジクカワアナゴ、チチブモドキ、オカメハゼ)は互いに形態が類似し同定は難しいが、頭部の孔器列の分布パターンに違いがあることが知られており(昭仁,1967)、チチブモドキは頬の横列孔器列の4列目のみが縦列孔器列を超えること、鰓蓋部の上下の孔器列は後方で途切れることにより日本産カワアナゴ属の他種から区別される。しかしながら顕微鏡下であるならともかく、野外で採集中や水中観察中にこれを確認することは困難であるため、筆者は野外ではざっくりと雰囲気と色彩の傾向的特徴で簡易的に見分けている。以下筆者が本種の同定の際に重視するポイントを挙げる。①目の後縁の暗色線は3本(カワアナゴでは2本)、②胸鰭基部に2暗色斑をもつ(テンジクカワアナゴ、オカメハゼでは1つ)、③尾鰭基部に2暗色斑をもつ(テンジクカワアナゴ、オカメハゼでは1つ)、④下顎から頬部にかけて輪郭の不定形な明色小斑が散在する(テンジクカワアナゴ、オカメハゼにはない)。

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なお、色彩的特徴についてはカワアナゴ属魚類では個体の状態や気分によって身体の地色が明色から暗色まで大きく変化し確認が難しい場合もあるので注意されたい。


れっきとしたカワアナゴの仲間であるにも関わらず「チチブモドキ」とは何ともアイデンティティのない名前だと思っていたが(そもそも「カワアナゴ」自体がアイデンティティのない名前だが…)、確かに背中側の模様などがチチブによく似ており、一見紛らわしい場合もある。また好む環境も似ており同時に採集されることも多い。
飼育はいたって簡単だが、同種や近縁種間で激しく争うため単独飼育が無難である。また口に入る大きさのものなら何でも食べようとするため小型魚との同居はバケツキープ中であっても避けたほうが良い(筆者はこれで何度か悲しい思いをしました)

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カキ殻の間に潜む 和歌山県南部河川 -2.0m

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幼魚 27.2mmSL. 頭部の孔器列がよく観察できる。

 

camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000

 

 引用文献

明仁親王. (1967). 日本産ハゼ科魚類カワアナゴ属の 4 種について. 魚類学雑誌, 14(4), 135-166.