アブラハヤ Phoxinus lagowskii steindachneri
紀伊半島での呼び名:【文献】はい、ぬめじゃこ、のめ(いずれも高野山)、は
いじゃこ(有田川金屋)
青森県から日本海側は福井県、太平洋側は岡山県までの本州に分布。河川中下流域に生息し、河川上流域を好む同属のタカハヤによく似るが、体側の縦帯が明瞭なこと、尾鰭基底中央に暗色斑をもつこと、尾柄部が低いことなどから識別される。また本種はタカハヤと比べてより大型に成長し、全長20cmに達することがある。
紀伊半島は本種の南限の生息地とされ(和歌山県編,2012)、東部の三重県側では産地数も個体数も多いものの、和歌山県側では多産する産地は少ない。半島内においては北部から中部の河川に分布し、富田川や日置川、古座川などの紀南地域の河川には分布しない。繁殖期は春から初夏にかけてで、流れの緩やかな淵の砂礫底で集団産卵するとされる。メスは繁殖期になると上唇がへら状に伸長するが、これは産卵の際に砂を掘るためのものである。
和歌山県の紀の川流域ではオイカワの佃煮寿司であるじゃこ寿司が郷土料理として古くから作られているが、オイカワが手に入らない時には本種用いて作ることもあったようだ(紀の川市粉河地区での聞き取り)。大きなアブラハヤはやや骨が硬いが、じゃこ寿司に乗る10㎝までの大きさであればまだ柔らかいため、オイカワの代用として好まれたのかもしれない。また有田川流域では炙って乾燥させたアブラハヤ、あるいはタカハヤを醤油と砂糖で甘辛く煮詰め押し寿司にするという。この地域ではアブラハヤとタカハヤはともに“はいじゃこ”と呼ばれるが人々は両種の違いを認識しており、淵で捕れるもの(タカハヤ)より瀬で捕れる縦帯の明瞭なもの(アブラハヤ)のほうがうまく、特に冬にとれる“かんじゃこ”が最もうまいとされた(種坂,2001)
引用文献
種坂英次.2001.紀州北部における魚ずし製法と関連したバショウの栽培.近畿大学農学部紀要,34: 173-179.
和歌山県編.2012.5 淡水魚類.保全上重要なわかやまの自然-和歌山県レッドデータブック-[2012年改訂版].81–106.p444.和歌山県環境生活部環境政策局環境生活総務課自然環境室.和歌山県.
(2022.8.4更新)