Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

紀伊半島の淡水魚図鑑No.20 オオキンブナ

オオキンブナ Carassius buergeri 

紀伊半島での呼び名:ふな(混称、各地)

f:id:oryza_818:20210714073043j:plain

オオキンブナ 和歌山県南部河川 -1.0m

日本淡水魚最後のパンドラボックス、混乱と難解の頂点を極めるのが本種を含んだフナ属魚類の分類である。日本には形態的に区別できる6種(ゲンゴロウブナ、ギンブナ、キンブナ、オオキンブナ、ニゴロブナ、ナガブナ)が分布するとされるが、一方でmtDNAを用いた系統解析ではゲンゴロウブナは明確に区別できるものの、それ以外の残り5種は遺伝的に区別できないという報告があり、これらは現状”フナ類”として扱うほかないという見解もある。ここでは分類学的な話は手に負えなかったので置いておいて、紀伊半島における本種の生息情報について記してみたい。

本種は西日本の広域に分布するが、紀伊半島においてもほぼ全域に分布する。半島最南部にも分布しており、当地においては貴重な在来のコイ科魚類である(ただし個体数は少ない)。個人の見解になるが、半島の南部ではギンブナを一度も目撃したことがないため分布しておらず、紀伊半島南部に自然分布するフナ属魚類は本種だけなのではないかと思っている。また河川の中下流域に生息するが、一般的にイメージされるフナの生息所である田んぼや下流域の淀みだけではなく、中流域の谷川のような環境にも生息していることがあり(さすがに流れの緩い淵にいるが)、驚かされることがある。

ギンブナはほとんどの個体が3倍体であり、オスがきわめて少なく、雌性発生による単為生殖を行うことがしられているが、本種はオスとメスが同数存在する。産卵期は3~6月でアシ原や田んぼ、ワンドなどの氾濫原湿地帯的環境で産卵を行う。和歌山県南部の古座川ではかつて春になるとたくさんのフナが春になると産卵のため田んぼに入り、それを食用に利用していたそうであるが、これは本種だったのではないかと思っている。現在の古座川流域では改修により河川本流と田んぼのつながりが絶たれてしまい、こうした光景は見られなくなった。古座川で本種を見る機会はきわめて少なくなっているが、上記の改修と無関係ではないかもしれない。

フナ類は臆病で水中撮影が難しいが、本種も例外ではなくこちらの姿に気付くとすぐに物陰に隠れるか遠くに泳ぎ去ってしまう。かなり慎重にアプローチしても逃げられてしまうため、近付くコツとか知ってる人がいたら教えてください……

 

f:id:oryza_818:20210714081132j:plain

和歌山県南部河川で採集。まさにオオキンブナの名にふさわしい大型個体。この場所の個体は身体の金色が強い。

f:id:oryza_818:20210714081302j:plain

谷川の流れの緩い淵で目撃。三重県宮川 -2.0m

f:id:oryza_818:20210714081808j:plain

中流域の淵にて。和歌山県古座川 -2.0m

f:id:oryza_818:20210714081436j:plain

ギンブナと同時に採集された。ギンブナと比べると体高が低い。和歌山県紀の川水系

camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro,  
strobe:D-200, D-2000