かつての“シマドジョウ”Cobits biwaeは現在オオシマドジョウ、トサシマドジョウ、ニシシマドジョウ、ヒガシシマドジョウの4種に分けられていますが、そのうち本種、オオシマドジョウはニシシマドジョウの染色体数が倍加したことにより誕生したと考えられる4倍体性の種であり、上野ほか(1980)によりその存在が報告されました。その後、Saitoh et al.(2000)やKitagawa et al.(2003)は従来の“シマドジョウ”には遺伝的に別種に相当すると考えられる4集団が含まれることを示し、本種をシマドジョウ西日本グループ4倍体型として扱いました。中島ほか(2012)は日本産シマドジョウ属魚類各種の新標準和名の提唱を行い、本種に対してオオシマドジョウの和名を与えましたが学名は未だ確定していません。本種はゲノム倍加による体サイズの大型化と遺伝的多様性の増加を獲得したことによって同属他種との競争に有利であると考えられており、分布域が接するニシシマドジョウを徐々に駆逐し生息域を拡大しつつあるといわれています(北川,2010:中島・内山,2017)。本種とニシシマドジョウの関係は日本の淡水魚の分布が現在もダイナミックに変容しつつあることを示す好例と言えるでしょう。
本種と最も形態的に類似するニシシマドジョウとの識別点は尾鰭基部の黒斑が上下とも明瞭で接続することとされていますが( vs. ニシシマでは上側のみが明瞭で下は不明瞭)、本種にも少なからず黒斑の下側が不明瞭な個体が存在し、決定的な識別的特徴とは言えません。確実に同定するためには染色体数と赤血球径を調べる必要がありますが、研究室ならともかく現場レベルではあまり現実的ではないでしょう。幸いなことに(?)本種とニシシマの分布域はほぼ被らないため、現状では分布域による同定が(同定と言えるのかどうかはさておき)最も簡単だと思われます(ごく一部の地域では両者の分布はかなり入り乱れるようですが…)。最後に下に和歌山県各地から集めた本種の写真を掲載しますので、本種の持つ形態の多様性を感じていただけたら幸いです。
Kitagawa T., Watanabe M., Kitagawa E., Yoshioka M., Kashiwagi M., Okazaki T. 2003. Phylogeography and the maternal origin of the tetraploid form of the Japanese spined loach, Cobitis biwae, revealed by mitochondrial DNA analysis. Ichthyological Research. 50. 318-325.
Saitoh K., Kobayashi T., Ueshima R., Numachi K. 2000. Analysis of mitochondrial and satellite DNAs on spined loaches of the genus Cobitis from Japan have revealed relationships among populations of three diploid-tetraploid complexes. Folia Zoologica. 49. 9–16.