ルリヨシノボリ Rhinogobius mizunoi
紀伊半島での呼び名:ごり(ハゼ類の混称)
分布:北海道から九州の各地。
生息環境:河川中流から上流域の急流部。水量の豊富な大河川に多く、小規模な河川ではまれ。
形態:全長10cm程度に達する。体形は一般的なハゼ科魚類様。オス成魚の第一背鰭は伸長し烏帽子型になる。身体の地色は青みがかった灰色。吻部に明瞭な赤褐色の縦線をもつ。頬に瑠璃色の小斑点が散在し、体側にも瑠璃色班点がならぶ。体背側に橙色の鞍状班が4つならぶことがある。背鰭、臀鰭および尾鰭の後縁は白色に縁どられる。なお、本種の色彩は個体差が激しく、同じ個体であっても状態によって大きく変わることがある。
同定:ヨシノボリ属魚類の同定は難しいが、本種は頬に瑠璃色斑点をもつこと、尾鰭基底にハの字型の暗色斑をもつことで本土産のほかのヨシノボリから識別される。
採集:たも網で採集する。流れの速い早瀬を好み、こうした場所に多い浮石の下に隠れているので、石をひっくり返して追い出したり、石ごと網の中に蹴りこんで捕る。
備考:本土産ヨシノボリ属魚類の中ではオオヨシノボリと並んで大型に成長する。頬に目立つ瑠璃色の斑点をもつことで他の本土産ヨシノボリ属魚類から容易に識別されるが、繁殖期のオスは体色が黒みがかり、瑠璃色斑点が見え辛くなるため注意が必要。また採集直後も体色が著しく黒化する場合がある。紀伊半島では中部から南部にかけての急流河川を中心にほぼ全域で見られるが、小規模な河川は好まず、水量が豊かな中~大河川の中上流域でよく見られる傾向がある。
本種は長らく学名のない状態であり、Rhinogobius sp. COと呼ばれていたが(“CO”はコバルトブルー=瑠璃色の意)、Suzuki et al.(2017)により新種記載され、Rhinogobius mizunoiの学名が与えられた。なお、種小名mizunoiはヨシノボリ属魚類の研究で高名な元愛媛大学の水野信彦博士に献名されたものである。
本種は多くのヨシノボリの仲間と同様、両側回遊型の生活史をもち、孵化した仔魚は川を下り海で成長したのち、また川に遡上するという生態をもつが、ダム湖の建設などにより海と川の連続性が絶たれると陸封化することもあるようだ(酒井ほか,2004)。下の写真の個体は和歌山県中部の河川で撮影したもので、ダムよりも上流の地点であったため陸封化された個体の可能性が高い。なお、酒井ほか(2004)は陸封化された個体は矮小化し、頬の瑠璃色斑点は不明瞭になることを報告したが、この場所から採集されたルリヨシノボリからはそうした特徴はみられなかった。
引用文献
酒井治己・新井崇臣・今井千文・杉山秀樹・佐藤仁志・田祥麟.2004.ルリヨシノボリRhinogobius sp. COの 自然陸封個体群.魚類学雑誌,51: 175–180.
Suzuki T., Shibukawa K., Aizawa M. 2017. Rhinogobius mizunoi, a new species of freshwater goby (Teleostei: Gobiidae) from Japan. Bulletin of The Kanagawa Prefectural Museum Natural Science, 46: 79–95