Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

紀伊半島の淡水魚図鑑No.31 クロハギ

クロハギ Acanthurus xanthopterus

紀伊半島での呼び名:くろはぎ、くろはげ、おじろはぎ

 

分布:茨城県以南の太平洋岸、南西諸島、小笠原諸島。国外ではインド洋から中央太平洋まで広く分布する。

生息環境:成魚はサンゴ礁域や岩礁域。幼魚はタイドプールや汽水域にも出現する。

形態:体高は高く身体は強く側偏する。背鰭は11棘25–27軟条。尾柄部に可動式の棘をもつ。成魚では身体の地色は灰褐色で体側後半部に虫食い模様が入ることがある。背鰭と臀鰭は褐色で3–5本の青白色の縦帯が入る。尾柄部の棘の被膜は暗色。尾鰭基部に白色横帯をもつが、大型個体では不明瞭なことがある。尾鰭は暗色。幼魚(未成魚)では頭部と体側は一様に褐色で尾鰭は白色。成長に伴い背鰭と臀鰭に縦帯が現れる。

同定:同属のニセカンランハギと類似するが、尾柄部の棘の被膜は暗色であること(ニセカンでは白色、ただし幼魚では暗色)、臀鰭に青白色の縁どりをもたないこと(ニセカンでは臀鰭に青白色の縁どりをもつ)によって識別される。また幼魚ではクロハギの尾鰭は白色であるのに対し、ニセカンランハギでは黄色であることでも識別できる。

採集:タモ網で採集できるが、泳ぎが素早いためガサガサで採るのは難しい。潜り採集も有効。

備考:最大で50cmに達する大型のニザダイ科魚類。成魚は潮通しの良いサンゴ礁岩礁域に生息するが、幼魚は内湾を好み、しばしば河川の汽水域にも出現する(四宮・池,1992;神田ほか,2009;鈴木・森,2016)。河川に出現するニザダイの仲間は珍しく、ほかにシマハギがまれに出現する程度である。紀伊半島南部の汽水域では幼魚が毎年のように見られ、成魚も岩礁域で普通。本種をはじめとするクロハギ属魚類は藻類食傾向が強く、身に独特の臭みをもつことが多いため水産資源としての価値は高くない。

和歌山県南部河川で採集した幼魚。背鰭のオレンジとブルーのストライプが美しい

引用文献

神田 猛・上原 聡・澁野拓郎.2009.八重山諸島石垣島陸水域魚類相.宮崎大学農学部研究報告,55: 13–24.

四宮明彦・池 俊人.1992.奄美大島における陸水域の魚類相.鹿児島大学水産学部紀要,41: 77–86.

鈴木寿之・森 誠一.西表島浦内川の魚類.魚類学雑誌,63: 39–43.