Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

ヤマノカミ

先週になりますが、現在、開催中の特別展「うなぎの旅展」を見に北九州市立自然史・歴史博物館いのちのたび博物館を訪れました。

unaginotabi.jp

今回の特別展の企画担当である日比野友亮学芸員は筆者の大学時代の先輩にあたり、展示に使用する写真を数点提供させていただいていた縁もあり、お誘いいただいていたのでした。

展示は生きたウナギから標本、生態および漁労・食文化まで取り扱った分野横断的かつ幅広いものであり、ウナギ目魚類の分類の研究を専門とするかたわら、長年にわたり全国のウナギ文化の取材を丹念に続けてきた日比野学芸員の活動の集大成といったところで、非常に見ごたえのあるものでした。先輩いわく「こんな展示はもう二度とできない」とのことですので、まだ来場されていない方はこの機会に足を運んでみてはいかがでしょうか(開催期間は1月29日(日)までとなっています)

さて、特別展を見に来るのがメインとはいえ、せっかく九州まで来たのですから、やはり他では見られない九州固有の淡水魚を見てみたいところ。今回は冬の時期にしか見られないという大型のヤマノカミの姿を見せてもらいに有明海流入河川に案内していただきました。

ヤマノカミは日本では有明海流入河川にのみ生息するカジカの仲間で、ほかの淡水カジカにくらべ尖った身体つきと鮮やかなオレンジ色の鰓蓋部が特徴です。本種は1年で寿命を終えるいわゆる年魚であると考えられており、春、体長3cmほどで海から遡上した稚魚は夏の間に急成長し、15cm前後に達した秋から冬にかけて産卵のため再び海に降るという生活史をもっています。本種はほかのカジカの仲間と同様、遡上する力が弱く、わずかな段差であっても遡上が妨げられます。よって本種の継続的な生息にはスムーズに遡上、降海できる環境が必要不可欠であり、本種は健全な川と海のつながりを象徴する存在と言えるでしょう。ただ残念なことに有明海流入河川でも堰の建設などの環境改変は進んでおり、本種の生息環境は厳しさを増している状況です。

今回訪れた川でも個体数はごく少ないようで、見つけられるかは運しだいとのこと。ヤマノカミは夜間のほうが捕りやすいらしく、深夜の冷たい川で筆者を含めた5人で汽水域から上流方向へ、丹念に岩の間などを探しながら進んでいきます。

汽水域から淡水域に切り替わる直前、大きな浮石同士の間に3本の黒い帯の入った物体があるのが目に飛び込んできました。ヤマノカミです!寝ているのか?ライトで照らしても逃げる様子はありません。右手に網をもち、もう片方の手でゆっくり網に追い込んでキャッチ。

全長15cm弱くらい。カッコいい

ほかのカジカとは異なった鋭角的なフォルム、そして綺麗なオレンジの鰓蓋。思わずかっこいい…という声が漏れてしまいました。写真ではなく実物を見てはじめて気がついたのですが、お腹にも細かいまだら模様が入っていてこれもまた美しいです。

そしてよく見てみるとウオビルのような寄生虫が数匹吸着していました。淡水にはいないはずなので、汽水に降りてきてから寄生されたのでしょうか?

ヤマノカミ 有明海流入河川 -0.3m

採集して手の中でしげしげと眺めていてもほとんど暴れる様子もないため、もう一度川に入れてやらせではありますが、水中写真を撮ってみました(人呼んでやら生態写真)水中で見ても様になる・・・今回はコンパクトカメラのTG-6しか持ってきていなかったのですが、これは一眼とハウジングをもって来なかったことを後悔しました。

正面斜めからもう一枚。今回はこの個体を含めた2個体が採集されました。5人でそれなりに探してこれなので、やはり個体数はかなり少ないようです。現在のヤマノカミを取り巻く状況はかなり厳しいものがありますが、どうにか命をつないで有明海の川の象徴であり続けてほしいものです。

 

camera : OLYMPUS TG-6