オオクチユゴイ Kuhlia rupestris

分布:アフリカ東岸からサモアにかけてのインド-西太平洋.国内では宮城県以南の太平洋沿岸,南西諸島.
生息環境:河川中下流域の淵.半島部や島しょ部に多い小規模河川にも生息できる.
形態:体長30 cmに達する.体高は高く,体は側偏する.口は大きく上顎後端は瞳孔の中心線に達する.背鰭は10棘10–12軟条.大型個体では尾鰭上下葉の先端は丸みを帯びる.体色は銀白色で体背側から背面は青緑色.頭部の背面に細かい虫食い模様が入る.体背側の鱗は黒く縁どられ,体背側全体に小暗色斑が密に並ぶように見える.背鰭軟条部の前半部と尾鰭の上下葉に顕著な黒色斑をもつ.
同定:同属のユゴイに似るが,本種は尾鰭の上下葉に黒色斑をもつこと,口は大きく上顎後端は瞳孔の中心線に達することで識別できる.
採集:たも網でも捕れるが動きが素早く,泳ぎ回る個体を採集することは難しい.大型個体は釣りの対象になるが,日本国内では南西諸島以外で大型に成長することは稀.
備考:紀伊半島においてユゴイ属魚類はユゴイ,オオクチユゴイおよびギンユゴイの3種が生息するが,河川に生息するのは前2種である.このうちオオクチユゴイは大型に成長し,河川の渓流域まで遡上できることからサケ科魚類のいない南西諸島では渓流のルアーフィッシングの好対象魚となっている.一方,紀伊半島を含む本州や四国,九州の太平洋側沿岸地域では本種の幼魚の記録は多いが(工藤・瀬能,2002:岩坪ほか,2017;旗,2020),成魚の記録がほとんどないことから,本種は黒潮によって南方から輸送され一時的に定着するものの,冬を越すことのできない死滅回遊魚と考えられている.なお,温帯であっても温泉水等の暖水が流れ込む環境では越冬できるようで,福島県の温泉水が流入する川で39 cmの個体が釣獲された例がある.また,かつて静岡県伊東市に存在した浄の池(温泉水が流入し,周年水温が25度前後に保たれていた.淡水であるにも関わらず,熱帯性の海水・気水魚が多くみられたことから天然記念物に指定.黒田長礼の「静岡県伊東町「浄の池」ノ魚類ニ関スルモノ」による調査報告が有名)に生息する魚類を描いた絵葉書にも成魚の本種の姿が描かれている.
降河回遊型の生活史をもち,親魚は産卵のために海へ降る.海域での詳しい産卵場所はわかっていないが,本種の精子は海水中でのみ運動能をもつことから,少なくとも海域で産卵が行われることは確実とされる(Hogan and Nicholson, 1987).仔魚はしばらく海洋生活を送り,ふ化後27日から58日ほどで河川へ加入すると考えられている(Feutry et al., 2012; Hutchison et al, 2022).



引用文献
Feutry, P., P. Valade, J. R. Ovenden, P. J. Lopez and P. Keith. 2012. Pelagic larval duration of two diadromous species of Kuhliidae (Teleostei: Percoidei) from Indo-Pacific insular systems. Marine and Freshwater Research, 63, 397–402.
Hogan, A. E. and J. C. Nicholson. 1987. Sperm motility of sooty grunter Hephaestus fuliginosus (Macleay) and jungle perch Kuhlia rupestris (Lacépède), in different salinities. Australian Journal of Marine and Freshwater Research, 38, 523–528.
Hutchison M., A. Norris and D. Nixon. 2022. The effect of salinity on jungle perch Kuhlia rupestris egg buoyancy and larval hatch rates. Aquaculture Research, 53: 3647–3653.
旗 薫.2020.宮城県内の河川で採集された県内初記録となる暖水性魚類.伊豆沼・内沼研究報告,14: 69–80.
工藤孝浩・瀬能宏.2002.横浜市侍従川におけるオオクチユゴイの出現.神奈川自然誌資料, 23: 3–4.
岩坪洸樹・橋口 亘・本村浩之.2017.九州初記録のユゴイ科魚類オオクチユゴイ.Nature of Kagoshima, 43: 189–192.
(改訂:2024年8月21日)