Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

紀伊半島の淡水魚No.4 オヤニラミ

オヤニラミ Coreoperca kawamebari

紀伊半島での呼び名:なし(国内移入種)

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オヤニラミ Coreoperca kawamebari 和歌山県北部水系

分布:自然分布域は京都府由良川以西の本州、四国東北部および九州北部。移入分布として東京都、愛知県、滋賀県和歌山県、宮崎県などに定着(藤田,2019)。

生息環境:河川中流域の流れのゆるやかな場所。岸際の植生など障害物のまわりに多い。

形態:体高の高いスズキ型の体形。背鰭は1基で棘条部と軟条部に分かれる。尾鰭の後縁は丸い。体色は全体に褐色。眼は赤く、眼の後ろには4から5本の赤褐色のラインが放射状に走る。鰓蓋に青緑色の眼状斑をもつ。体側に6から8本の濃褐色の横帯をもつ。背鰭と臀鰭軟条部および尾鰭は赤みを帯び、水色の小斑点が散在する。

同定:独特の形態で同定は容易。宮崎県大淀川水系に移入分布するコウライオヤニラミを除き、国内で本種に似た淡水魚はいない。

採集:たも網で採集する。物陰に隠れる習性が強いのでガサガサでよく捕れる。また大型個体は釣りでも狙えるようだ。

備考:日本在来種では唯一であるスズキ亜目に属する純淡水魚。本種を含むケツギョ科魚類は中国東岸から朝鮮半島かけて多くの種が分布し、大陸と日本列島の淡水魚の分布の連続性を考える上で日本のオヤニラミは重要な種である。河川中流域の流れの緩い場所を好み、水生昆虫や甲殻類などを主な餌としている。繁殖期は春から初夏にかけてで、流木やアシの根本を産卵床にし、オスは仔魚が生まれるまで卵を保護する。なお、コイ科のムギツクが同水系に分布する場合、同種からの托卵の対象になることが知られている。本来、本種は紀伊半島には分布しないが、国内外来魚として和歌山県紀の川水系に定着している。本種は水産重要種ではなく遊漁の対象にもならないが、日本産淡水魚らしからぬ姿かたちから観賞魚として人気が高く、飼育個体の遺棄と思われる放流より和歌山県以外でも東京都、愛知県、滋賀県、宮崎県などに定着している。

本種は紀の川水系のある支流において2004年ごろ初めて確認され、現在では水系の一部ではあるがすでに駆除しきれないほど繁殖していることから  和歌山県外来種リスト で「重点啓発外来種」に指定されている。生息域は徐々に下流の方に広がってきており、今後もその動向には注視が必要である。本種は小さいながらも肉食魚であることから小型の水生生物が食害される可能性があり生態系への影響が懸念される。

本種と深い関わりをもつ魚といえばムギツクである。ムギツクはオヤニラミなどの卵を守る習性のある魚の産卵床に自らの卵を産み付け、代わりに守ってもらう托卵の習性があることが知られている。山陽地方や九州北部などではオヤニラミとムギツクが同一の水系に自然分布しており、ムギツクのオヤニラミへの托卵の習性は両種の長い相互関係の中で進化していったものと考えられている。紀の川水系にはムギツクが在来分布するが、オヤニラミは自然分布しないため、従来、紀の川のムギツクはオヤニラミと同じく卵を保護する習性のあるギギやドンコに対して托卵を行っていたようである。紀の川では比較的近年になってオヤニラミが移入したが、この外来のオヤニラミをムギツクが托卵の対象として認識できるかどうかは謎であった。そこで京都大学の研究グループが紀の川水系のこの支流をフィールドに調査を行ったところ、ムギツクは外来のオヤニラミに対しても托卵を行うことが明らかとなった(Yamane et al., 2019)。ただし、托卵する割合は両種ともに在来である場合と比べてかなり低くなるようだ。

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オヤニラミ Coreoperca kawamebari 和歌山県北部水系

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オヤニラミ Coreoperca kawamebari 和歌山県北部水系産

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オヤニラミの稚魚。このころから既に本種らしい顔つきを備えている。 和歌山県北部水系 -0.5m

 

 引用文献

藤田朝彦.2019.山渓ハンディ図鑑 15 増補改訂版 日本の淡水魚.細谷和海(編・監修).2019.346–347.p559.

Yamane H., Umeda S., Tominaga K., Watanabe K. 2019. Can a nest associate fsh use an introduced host?—Brood parasitism by Pungtungia herzi toward introduced Coreoperca kawamebari. Ichthyological Research (Online first: doi.org/10.1007/s10228-019-00702-z)