Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

コクチバス Micropterus dolomieu

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コクチバス 紀の川 -1.5m

先日、紀の川水系で撮影したコクチバスです。
コクチバスは90年代に長野県の野尻湖で発見されて以降分布が拡大しつつある外来魚で、同属のオオクチバスと同様ルアーフィッシングの好対象とされており、釣り愛好家からは英名の“Smallmouth bass”からスモールマウス、あるいはもっと略して単にスモールとも呼ばれます。オオクチバスは言わずと知れた侵略的外来種ですが、本種もまた生態系に対する強い侵略性を有していると考えられており、外来生物法による特定外来生物に指定されています。また本種はオオクチバスに比べ低水温や流水環境への適応力が高いとされ、流れの速い河川中流域にも生息できることから今までオオクチバスからの食害に遭うことが少なかったアユなどの在来魚への悪影響が懸念されています。

本種は和歌山県では2010年に県北部のため池で初確認されました。その池では発見直後に池干しを行ったことにより一度は根絶されたものの、その後も県北部では密放流が疑われる確認事例が相次ぎました。しかしいずれも少数に留まり定着したかどうかまでは確認されていないことから、和歌山県の外来種リストでは「定着初期/限定分布」の状況であるとされています。
今回の撮影ではチュウガタスジシマドジョウ和歌山県レッドデータブックで絶滅危惧IAに指定)の撮影のため紀の川の本流に潜っていたのですが、撮影開始早々、見慣れない黒い稚魚が川底に群れているのを発見しました。これはもしや…と顔を上げると大きさ40㎝ほどのコクチバスがこちらを観察するように寄ってきていました。カメラを向けても大きく逃げることはなく、こちらを観察しつつ一定の距離をとって泳ぎ続けるような行動を見せます。稚魚が群れている場所からは少し離れて泳ぎまわっていたのですが、ひょっとすると稚魚保護中の親個体だったのかもしれません。ほかにも複数の個体を確認したことから、紀の川ではしっかりと定着してしまっているようです。

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コクチバスの稚魚 紀の川 -1.0m

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コクチバスの稚魚 紀の川 -1.0m

なお、この場所ではほかにオオクチバスブルーギルの幼魚も確認されました。目的のチュウガタスジシマドジョウの姿もありましたが、この状況を見るにつけ、彼らの未来は明るくないものかもしれません。

コクチバスは近年、外来生物法による規制があるにも関わらず、全国的に急速に分布を広げており、近隣の三重県奈良県でも確認水系が増えています。これらの分布拡大は密放流によるものである可能性がきわめて高く、残念なことに著しくモラルの低い者が少なからず存在していることを示しています。特定外来生物の放流は言うまでもなく犯罪であり、断じて許されないものです。和歌山県でもすでに定着してしまった個体の駆除や、これ以上の拡散を防止するため周辺河川のモニタリングを行うなどの対策が求められるでしょう。

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camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO, M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
strobe:D-200, D-2000