Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

宮川水系にネコギギを追う

東海地方には固有の淡水魚が複数種分布していますが、その中で最も知名度が高いのがネコギギではないでしょうか?普通のギギを丸っこくしたような可愛らしいフォルム、絶滅危惧種にして種指定の天然記念物というステータス性(?)魚好きであれば一度は見てみたいと思える魅力的な魚だと思います。

本種は天然記念物のため、文化財保護法により無許可での採集が禁止されています。そのため、筆者のような一般人がその姿を記録しようと思うと水中撮影以外の手段がありません。実は以前に一度だけ三重県の某水系で撮影したことがあるのですが、その時は逃げざまの後ろ姿しか撮れず悔しい思いをしたものでした。

今回訪れたのは三重県南部を流れる一級河川、宮川水系。日本屈指の多雨地帯である大台ケ原を源流とし、三重県を東西に横断する大清流です。ネコギギの生息地としては分布の南限にあたりますが、自然度が高くネコギギの生息数が多そう(想像)なこと、水量が豊富で透明度が高いことから今回撮影地に選びました。

しかし、広大な宮川水系の中でネコギギのいる場所をピンポイントで知っているわけではありません。一つのポイントではダメだったときには別のポイントにチャレンジしたいところですが、ネコギギの活動時間は夜。真っ暗な中、初見の場所に潜水するのはあまりにも危険です。そのため下見として明るい昼間のうちから良さげな場所を複数周ってみることにしました。

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アユの群れ 宮川水系 -2.0m

 潜ってみると透明度としてはまずまずといったところ。…いや、十分に綺麗なのですが、これでもまずまずと感じてしまうのは銚子川やら熊野川といった飛び抜けた透明度の川に見慣れてしまっているせいなのでしょうね。とは言えマクロはもちろんワイド撮影にも問題のない透明度です。

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激流を泳ぐアジメドジョウ 宮川水系 -0.5m

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コケを食べるアジメドジョウ 宮川水系 -0.5m

激流の落ち込みの際にアジメドジョウがいました。岩に生えた藻類を採食中のようです。本種は流水性のドジョウでかなり泳ぎが達者ですが、それでもここまで流れの速い場所にもいるものかと感心しました。

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ナガレカマツカ 宮川水系 -1.5m

4箇所目に潜った場所にはナガレカマツカがいました。実は本種も今回ひそかに狙っていた魚で、撮影するのは初めてでした。

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ナガレカマツカ 宮川水系 -1.5m

実のところ普通のカマツカと比べ一見して全然違う!という感じではないですが、背部の暗色斑や体側中心の金色線が明瞭なことで、カマツカとは違う雰囲気を感じることができます。またナガレカマツカカマツカと比較して胸鰭の棘状軟条が短く、その先端は胸鰭第6軟条の先端に達しません。そのため胸鰭外縁の輪郭が後方へ強く湾曲して見えるという特徴があるのですがお分かりいただけるでしょうか?

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ナガレカマツカの胸鰭 宮川水系 -1.5m

このナガレカマツカのいたポイントは隠れ家となる浮石が多く、水も清浄でいかにもネコギギが棲みやすそうな環境でした。ということでここでネコギギの活動時間である夜になるのを待つことにしました。

7時半過ぎ。辺りが真っ暗になった頃合いを見計らって川に入ります。水の中では魚たちは完全に寝静まっていて、アユ、オイカワ、カワムツ、ニゴイ、ウグイ、アユ等の面々が見られますが、肝心のネコギギはいません。それでも諦めずに捜索を続けていると岩の陰に丸い尾鰭が見え隠れするのを発見。覗き込んでみると10㎝弱のネコギギがホバリングするように泳いでいます!やっと会えた!と感動するのもつかの間、すぐに岩の奥に引っ込んでしまいました。ナマズの仲間は皆そうなのですが、本種も光に敏感でライトを嫌っているようです。

その後も複数の個体を見ましたが、どの個体にもすぐに逃げられてしまいます。加えて今回カメラに装着していた60mmのマクロレンズは暗所でのオートフォーカスが遅く、まともにその姿を捉えることができません。強く照らすと逃げられ、光を弱くすると今度はピントが合わないというジレンマに陥りイライラが募ります。一度水から上がりレンズをフォーカスの速い30mmマクロに変えようかと思い始めていたその時にあまり逃げることのない、撮らせてくれる個体に遭遇しました。

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ネコギギ 宮川水系 -2.0m

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ネコギギ 宮川水系 -1.5m

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ネコギギ 宮川水系 -1.5m

どの魚でもそうですが、撮らせてくれる個体とそうでない個体がいます。この個体の場合は流れのやや速い場所に定位するように泳いでくれたのでうまくピントの合ったショットを撮れました。光も気にしていないということはなさそうでしたが、それでもサービス精神旺盛で(?)岩陰に隠れるようなことはあまりありませんでした。
今回は狙っていた魚はすべて撮れ、満足感に浸りながら帰路につきました。一個体だけ今年生まれと思われる3㎝ほどのネコギギの幼魚を撮り逃したのですが、それだけが心残りかな…とは言えこれだけ色々な魚を見られたのは良かったです。

この日もジリジリと焼けるような暑さでしたが、水の中は気持ちよかったです。僕は寒がりなので、夏場でもドライスーツを多用するのですが、今回はウェット一本で平気なほどでした。まだまだ暑い時期は続きますし、平日はともかく休日は撮影がてら水の中で暑さをやり過ごしていきたいですね。

 

camera : E-M1 markⅡ
lens : LUMIX G FISHEYE 8mm/F3.5, M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000