Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

琵琶湖のワカサギ

ワカサギ 琵琶湖 -4.0m

氷上の穴釣りで有名なワカサギ。東日本の太平洋側や宍道湖以北の日本海側に自然分布する魚ですが、食べておいしく、水産資源としての需要が高いことから、古くから分布域外への移植が繰り返されてきました。琵琶湖へも1910年代と1940~50年代にかけて霞ケ浦三方湖からワカサギ種苗が導入された記録が残ります(井出・山中,1998)。しかし、当初はいくら放流を行ってもワカサギが増えることはなく、漁業が成立するほどの個体数が琵琶湖に定着することはありませんでした。ところが1990年代に入り、突如としてワカサギの個体数は増加を見せ始め、現在ではアユに次ぐ漁獲量を占めるなど琵琶湖の水産業において存在感を示しつつあります。

上記のとおり本種は琵琶湖において純然たる外来魚なのですが、奇しくもホンモロコなどの在来の水産重要種が減少したタイミングで本種の資源が増加し始めた経緯もあり、新たな収入源として漁業関係者からは歓迎されている側面があります。本種はプランクトン食性のため、同様の食性をもつコアユやホンモロコと餌をめぐる競合が予想されますが、これら在来魚の資源にワカサギが影響を与えているという報告は今のところありません。しかし、少なくともワカサギの成魚はアユの仔魚を捕食することが明らかになっており(井出・山中,1998)、捕食・被食関係も含め、本種が在来の生態系に及ぼす影響についてはきちんと評価されるべきでしょう。

さて、先日琵琶湖北部の岩礁帯で水中撮影していると、体長2、3cmほどの透明な仔稚魚が泳いでいるのを見かけました。脂鰭をもつことから一見してキュウリウオ目魚類なのは間違いなく、特にこれまでに何度も撮影してきたアユの稚魚にそっくりでした。アユは秋から冬に孵化するため(特に琵琶湖のコアユは産卵期が早い)、この時期に稚魚がいるとしたら非常に珍しいことです。すっかりアユだと思い込んでいて、撮影中も、そのあとも外来種のワカサギのことなど頭から抜け落ちていたのですが、後でSNSのフォロワーさんから「それはワカサギじゃないですか?」と教えていただきました。

成魚はともかく、稚魚のころは非常に似ているアユとワカサギですが、計数形質に違いがあり、背鰭軟条数がアユで10–11の範囲なのに対しワカサギ710。臀鰭軟条数ではアユ1415の範囲に対し、ワカサギ1318と、重複はあるものの識別することができます。写真の個体は背鰭10軟条、臀鰭17軟条とワカサギの範囲に入るため本種に同定されました。ちなみに琵琶湖のワカサギの産卵期は12月から3月にかけてで、ピークの1月下旬から2月にかけては大群で接岸するため、これをたも網などで捕る「ワカサギすくい」が手軽においしい食材が手に入るとあって、にわかに脚光を浴びつつあります。毎年気になりならがも行ったことはないのですが、この冬はワカサギの産卵の撮影も兼ねて湖岸を訪ねようかと思います。

 

引用文献

井出充彦・山中 治.1998.琵琶湖で増加したワカサギの特性.滋賀県水産試験場研究報告,47: 1116.

 

camera : OM-1
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, Z-240