Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

稚アユの遡上はじまる

アユ 和歌山県南部河川 -0.5m

今年もアユが川に帰ってきました!

実は海での稚アユの撮影をしていた先週あたりからぽつぽつと川には入ってきているようでしたが、今週に入り本格的に加入がスタートしたようです。

撮影はお気に入りの和歌山県南部の河川の汽水域。普段は水が澄んでいるですが、この日はあいにく濁った潮が川の下層に入り込んでおり、懸濁物の多い環境下での撮影となってしまいました。濁った塩水の中では撮影にならないので、比較的澄んだ淡水側に泳いできたときに撮影しています。

 

アユ 和歌山県南部河川 -0.5m

アユ 和歌山県南部河川 -0.5m

見られるアユの大きさにはかなりばらつきがあり、身体がしっかり銀色を帯びるようになった60mm前後の個体もいれば、まだ身体が透明な30mmほどの個体も混じります。

大きな個体はともかく、未熟な、シラスのように透明な段階で川に入るのは内地のアユではほとんど知られていないのではないでしょうか?ちなみにここでわざわざ”内地の”と書いたのは奄美と沖縄島(在来個体群は絶滅)に分布する亜種リュウキュウアユはアユと比較して小型かつ若齢で河川に遡上することが知られているからです(岸野・四宮,2003)。アユの海洋生活期間の長さは海水温と密接に関係しており、水温が高くなるに従い短くなるとされています。これはアユが冷水系を起源とする魚であり、どちらかというと高水温が苦手なためです。リュウキュウアユでは低水温期の短い南西諸島の環境に適応するため、海洋生活期を早めに切り上げ、未熟な状態で河川に遡上するよう進化したと考えられています。

今回撮影したような未熟な状態で河川に遡上するアユ稚魚はこれまで知られていませんでしたが、これが単に今まで知られていなかっただけで従来からみられる現象なのか、あるいは近年になってから現れた現象なのかは不明です。もしも後者ならばその原因として考えられるのはやはり地球温暖化による海水温上昇でしょう。鈴木ほか(2014)は河川海洋結合モデルを用いた解析により温暖化によって河口付近の水温が現在より3℃上昇するとアユの遡上時期が1か月ほど早まってリュウキュウアユにように若齢・小型の状態で河川に遡上する可能性について考察しています。もっとも今回観察されたようなアユ稚魚がそうした地球温暖化の影響を受けた個体なのかどうかはなんとも言えませんが、今後も注目すべき存在なのは間違いないでしょう。

 

引用文献

岸野 底・四宮明彦.2003.奄美大島の役勝川におけるリュウキュウアユの遡上生態.日本水産学会誌,69:624–631.

鈴木靖・本間基寛・佐藤嘉展・道広有理・竹門康弘.2014.水温の将来変化がアユの遡上時期に及ぼす影響について.土木学会論文集B1(水工学),70:1213–1218.