Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

クチサケハゼ

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クチサケハゼ 三重県南部河川 -2.0m

先日、三重県南部の汽水域で撮影したクチサケハゼです。千葉県以南の河川汽水域の泥地を好むハゼで、撮影地も強く踏み込んだら嵌ってしまうような軟泥でした。なお、生息環境は泥なら何でも良いというわけではなく、たとえば嫌気性のヘドロの場所には出現しません。
同属のノボリハゼとは好む環境が似ており、見た目もよく似ているのですが、本種はその名のとおり大きく裂けた口をもち、上顎の後端は眼の後縁を大きく超えること、眼下の暗色帯が上顎に接するあたりで後方に折れ曲がり「く」の字様になることによって見分けることができます。
いかにも南方系の雰囲気を感じるハゼで、紀伊半島では個体数は多いとは言えず、採れると嬉しい魚のひとつです。なお、本種を三重県から初めて報告した山川ほか(2020)は本種が三重県において越冬・再生産できない死滅回遊魚である可能性について言及していますが、写真の個体は明らかに昨年以前に加入したと思われる大きさであり、撮影時期(2月)から考えても少なくとも越冬しているのは確実だと思われます。
性質は同所的にみられるツマグロスジハゼに比べると警戒心が薄く、目の前まで近づいてもあまり逃げません。一方で本種の生息地は泥深く、少し動いただけで泥を巻き上げてしまい撮影にならないので、シュノーケリングで撮影している場合、息継ぎで浮上するまでの一発勝負です。ほかにも汽水域特有の淡水と海水が混ざり合うことによる”ゆらぎ”の影響もあり、撮影は一筋縄ではいきません。いずれタンクを使ってじっくり撮影してみたい魚です。

 

引用文献

山川宇宙・碧木健人・津田吉晃・瀬能宏.2020.三重県で採集されたオカメハゼおよびクチサケハゼ.南紀生物.62(1).2225.