ナガレホトケドジョウ Lefua torrentis
河川上流域から源流域に生息する特異なドジョウ。瀬戸内海を囲む岡山県から和歌山県までの本州西部と、徳島県から愛媛県までの四国に分布する(一部は日本海側にも分布)。紀伊半島では和歌山県西部の瀬戸内海・枯木灘流入河川と奈良県の熊野川水系に分布。紀伊半島東部の三重県には分布しないが、代わりに同属のホトケドジョウが分布する。ホトケドジョウとはよく似ているが、眼から吻にかけての縦線が明瞭であること(vs. 縦線は不明瞭)、眼が小さく、やや背面側に位置すること(vs. 眼は大きく、側面に位置する)、背鰭および尾鰭に暗色点をもたないこと(vs. 暗色点をもつ)によって区別される(Hosoya et al., 2018)。
本種は他の魚が棲めないようなかなり小規模な水域にも生息でき、川とは呼べないようなごく細い流れや水たまりのような場所にいたりもする。上の写真を撮影したのもそんな水たまりのような場所で、あまりに水深が浅く、防水ハウジングが使えないため、マクロレンズの先端を水につけて撮影した。
本種は遺伝的に紀伊・四国集団と山陽集団に二分され、紀伊・四国集団は体背部に斑紋をもつ個体(有班型)が多いとされる(細谷編,2019)。しかし紀伊半島内でも本種の分布の南限にあたる日置川水系では無斑型の個体が生息しており(和歌山県編 2012)、このような分布様式が成立した過程に興味がもたれる。
飼育は高水温に気を付けさえすれば丈夫で、沈下性のペレットなどをよく食べる。餌に対する反応はホトケドジョウよりも素早く、かつ貪欲なように感じられ、餌の少ない源流域への適応なのではないかと思う。小さな身体に見合わず長寿な魚のようで、自然下でも10年以上生きた記録があるようだ。上流域の魚のため、とにかく高水温にならないよう注意が必要で、筆者宅では夏場はクーラーとファンを使い水温が25度以上にならないよう管理している。
camera : E-M5, E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro, M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6
引用文献
Hosoya K., Ito T., Miyazaki J. 2018. Lefua torrentis, a new species of loach from western Japan (Teleostei: Nemacheilidae). Ichthyological Exploration of Freshwaters. 28. 193–201
細谷和海.2019.山渓ハンディ図鑑 15 増補改訂版 日本の淡水魚.細谷和海(編・監修).2019.210–211.p559.
和歌山県編.2012.5 淡水魚類.保全上重要なわかやまの自然-和歌山県レッドデータブック-[2012年改訂版].81–106.p444.和歌山県環境生活部環境政策局環境生活総務課自然環境室.和歌山県.