Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

チョウモドキの寄生

アマゴに多数寄生するチョウモドキ 日置川水系 -1.5m

先日、和歌山県南部の日置川の上流域で撮影していると多くのアマゴの体表に茶色っぽい異物が多数付着しているのを見つけました。これは何だろうか?と撮影した写真を拡大してよく見てみるとエラオ類の寄生虫、チョウモドキ Argulus coregoniでした。


チョウモドキはウオジラミとも俗称される*1寄生性の甲殻類の一種で、円盤状の身体に2つの吸盤をもち、これで魚の体表に張り付き針状の吻部で体液を吸って暮らしています。その名のとおり同属のチョウ Argulus japonicusによく似ているのですが、チョウモドキのほうがやや大型に成長し、腹部の先端がやや尖ることなどにより識別されます。またチョウがコイやキンギョなどの温水魚に寄生するのに対し、チョウモドキはサケ科魚類やアユなどの冷水魚に寄生するようです。


今回の日置川水系の撮影場所にはこれまでに何度か潜っていて、アマゴも毎回観察しているのですが、チョウモドキの寄生を確認したのははじめてでした。突如出現したのみならず、その数も多く、半分を超えるアマゴが寄生されていたように思います。本種はアユを主要な宿主とし、アユの河川への遡上に合わせた生活史(アユの遡上期である春から夏にかけて孵化、寄生し成長)をもつとされ(長澤・森川,2019)、河川内におけるアユの動態が本種の分布の拡大に重要な影響をもっていると考えられますが、今回の撮影ポイントはダムの上流でありアユは遡上できないため、アユに付随してこの場所にやってきたわけではなさそうです。それではなぜこの川でチョウモドキが突如として大量発生したのか?本種の発生は養魚場からも多数報告されること、今回の宿主のアマゴの多くは朱点が目立ち、頭部がやや丸みを帯びることなどから放流魚の可能性が高いことを考えると、今回のチョウモドキはアマゴの種苗生産場で大量発生し、その後そのアマゴ種苗に付随してこの川に持ち込まれた可能性が高そうです。ちなみにエラオ類は外部寄生虫ではありますが、強い遊泳力をもち離脱後、容易に他魚に再寄生することができるため今後、放流魚のみならず天然魚も被害を受ける可能性があります。放流は簡単に水産資源を増殖できる効果的な手法ですが、病原体のもちこみ、非意図的な外来魚の混入、在来集団に対する遺伝的かく乱など多くのリスクを抱えています。今回目に見える形でそのリスクを実感できた印象的な出来事となりました。


ちなみに今回のポイントには同所的にタカハヤも生息しているのですが、タカハヤに対するチョウモドキの寄生はゼロでした。本種はコイ科魚類にも寄生することがしられていますが(長澤・谷口,2021)、サケ科魚類がいる環境ではコイ科には寄生しないなど、何らかの宿主特異性があるのかもしれません。

 

引用文献

長澤和也・森川 学.2019.三重県大内山川産アユに寄生していたチョウモドキと宿主である河川アユの重要性に関する考察.Nature of Kagoshima,46: 21-26

長澤和也・谷口倫太郎.2021.タナゴ亜科魚類からのチョウモドキの第2記録:岡山県産アブラボテにおける寄生.タクサ 日本動物分類学会誌,51: 29-37

 

camera : E-M1 markⅡ
lens :  M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000

*1:別名ウオジラミとされることもあるがこれは誤りで、ウオジラミは寄生性カイアシ類Caligidaeの標準和名である。