Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

アマゴの幼魚

昨日は久しぶりに上流域で撮影でした。

上流域ということで魚の種類は少ないですが、昨年生まれと思われるアマゴの幼魚たちの姿が多く見られました。成魚は渓流魚らしく警戒心が強くなかなか近づきがたい魚ですが、この大きさの幼魚はむしろ採餌に夢中なようで大きく寄っても逃げられることは少ないです。

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アマゴ 和歌山県南部河川 -1.0m

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アマゴ 和歌山県南部河川 -1.0m

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アマゴ 和歌山県南部河川 -0.5m

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大あくび。尾鰭が切れてるのが残念!

3cmくらいのあどけない幼魚でもしっかりとアマゴの模様の特徴が出ているのが面白いですね。ちなみにこの場所はダムの上流にあたるため、彼らが降海してサツキマスになることはないと思われます。

 

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ウグイ 和歌山県南部河川 -1.5m

同所的にウグイの姿も多くみられました(むしろ彼らが優占種か)。雄には婚姻色が出始めた個体もちらほら。そろそろ彼らの産卵シーズンに入りますが、この場所ではまだ早そうな感じです。この場所の産卵時期は昨年通った感じだと5月ぐらいと思っているのですが、実際にその瞬間を見たわけではないので何とも言えません。

 

camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000

論文が出版されました

拙著が魚類学のオンライン和文ジャーナルICHTHYで公開されました。オープンアクセスです。Twitterでも宣伝したのですが、こちらにも載せておきます。

 

和歌山県串本町から採集された北限記録のミナミフエダイ Lutjanus ehrenbergii

https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/ichthy/INHFJ_2021_006_038.pdf

 

内容としてはタイトルのまんま、串本でミナミフエダイが採れたよ!どうも北限記録みたい!以上。というお話です。

 

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ミナミフエダイ 論文で報告した個体と同一

ミナミフエダイ Lutjanus ehrenbergiiは西はアフリカ東岸から東はミクロネシアまでのインド-西太平洋の熱帯域に広く分布する魚です。その一方で本種の日本国内からの記録は少なく、これまでに八重山諸島石垣島西表島、そして宮崎県の日向灘からの記録に限られていました。

今回、和歌山県串本町の漁港から採集されたミナミフエダイも体長57.6 mmの未成魚で卵、あるいは仔稚魚の時に黒潮により南方から輸送され、串本沿岸に定着したものと思われます。近年串本をはじめとする紀伊半島の南部からこれまでに記録のなかった熱帯性魚類の出現が多く報告されてきており(例えば冨森・松沼,2020のナンヨウアゴナシや脇本・國島,2021のキテンハタ)、こうした魚類の出現状況とその傾向を調べることで魚類の分布拡散に黒潮がもたらす影響の解明に繋がるかもしれません。

以下、論文には書いていないことを補足します。論文で報告した個体は漁港内の岸壁で夜間に採集されました。串本の漁港ではクロホシフエダイニセクロホシフエダイ、イッテンフエダイなどの体側に黒斑をもつフエダイ属の幼魚をしばしば目撃しますが、そのいずれとも異なる大きく、正円形に近い黒斑をもつフエダイの幼魚を発見しため、おや?と思いタモ網ですくいました。当初からもしかしてミナミフエダイかも?と疑っていましたが、いかんせん今まで本種を見たことが無かったため半信半疑でスマホを片手にあれこれ調べてようやく本種だと確信しました。

本種は形態的にニセクロホシフエダイと最も類似しますが、ミナミフエダイの側線より上の鱗列は側線とほぼ平行に並ぶこと(ニセクロでは斜めに並ぶ)、眼をとおる濃褐色縦帯をもたないこと(濃褐色縦帯をもつ)、体側の黒斑は正円形であること(前後に長い楕円形)により識別されます。

本種は八重山諸島ではマングローブ帯や河口域などの汽水域で多くみられるようですが、今回の個体は上記のとおり周囲に河川等の淡水の流入のない漁港から採集されました。しかし、和歌山でもゴマフエダイやクロホシフエダイ、オキフエダイなどの他のフエダイの仲間は汽水域で多く見られることから、稀だとは思いますが本種もいつか和歌山の川で見られるのではないかと期待しています。その際にはぜひ写真に収めて”紀伊半島の淡水魚”としてここで紹介したいものです。

 

引用文献

冨森祐樹・松沼瑞樹.2020.和歌山県串本町から得られた本州沿岸2例目のツバメコノシロ科ナンヨウアゴナシの記録.Ichthy,Natural History of Fishes of Japan,1:22-24.

脇本総志・國島大河.2021.和歌山県串本町から得られた標本に基づく本州初記録のキテンハタ Epinephelus bleekeri.Ichthy,Natural History of Fishes of Japan,4:22-25.

 

ミミズハゼの繁殖行動?

昨日は2週間ぶりの撮影でした。

某魚の狙いたいシーンがあったのですが、それは見ることすら叶わず・・・

代わりと言っては何ですが、ミミズハゼの仲間の珍しい(?)行動を観察することができました。

ミミズハゼと言えば普段は転石の裏や砂利の中に潜んでおり、滅多なことでは姿を見せない魚ですが、この日は細かい砂底の場所に何匹(何十匹?)ものミミズハゼが集合していました。抱卵しているメスの個体もいたため、繁殖に関係のある行動なのかもしれません。昨年も同じような時期に表に出てきている抱卵個体を見たため、ちょうど今頃が繁殖期なのでしょうね。

場所は感潮域の最上部で、潮が入ってくることもあると思われるポイントですが、撮影時はここ最近の降雨の影響か純淡水でした。ちなみにミミズハゼの仲間としていますが、恐らく普通のミミズハゼ Luciogobius guttatusではないかと思っています。”普通のミミズハゼ”って言葉がすでに哲学的ですが・・・

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ミミズハゼの仲間 三重県南部河川 -1.0m

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ミミズハゼの仲間(とゴクラクハゼ幼魚) 三重県南部河川 -1.0m

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ミミズハゼの仲間 三重県南部河川 -1.0m

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ミミズハゼの仲間 三重県南部河川 -1.0m

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ニホンウナギ 三重県南部河川 -2.0m

 

camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000

紀伊半島の淡水魚図鑑No.19 チチブモドキ

チチブモドキ Eleotris acanthopoma

紀伊半島での呼び名:【文献】ぼっかい、くえ(新宮)、ささぐり(太地)、かわあたがし(宇久井)かわぐえ(田辺)※いずれもカワアナゴ属の混称

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チチブモドキ 和歌山県南部河川 -1.5m

全長20cmに達するとされるが、よく見かけるのは15cmほどまで。紀伊半島では南部の汽水域でよく見られる。夜行性で昼間は岩陰などに隠れていることが多い。日本産のカワアナゴ属魚類4種(カワアナゴ、テンジクカワアナゴ、チチブモドキ、オカメハゼ)は互いに形態が類似し同定は難しいが、頭部の孔器列の分布パターンに違いがあることが知られており(昭仁,1967)、チチブモドキは頬の横列孔器列の4列目のみが縦列孔器列を超えること、鰓蓋部の上下の孔器列は後方で途切れることにより日本産カワアナゴ属の他種から区別される。しかしながら顕微鏡下であるならともかく、野外で採集中や水中観察中にこれを確認することは困難であるため、筆者は野外ではざっくりと雰囲気と色彩の傾向的特徴で簡易的に見分けている。以下筆者が本種の同定の際に重視するポイントを挙げる。①目の後縁の暗色線は3本(カワアナゴでは2本)、②胸鰭基部に2暗色斑をもつ(テンジクカワアナゴ、オカメハゼでは1つ)、③尾鰭基部に2暗色斑をもつ(テンジクカワアナゴ、オカメハゼでは1つ)、④下顎から頬部にかけて輪郭の不定形な明色小斑が散在する(テンジクカワアナゴ、オカメハゼにはない)。

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なお、色彩的特徴についてはカワアナゴ属魚類では個体の状態や気分によって身体の地色が明色から暗色まで大きく変化し確認が難しい場合もあるので注意されたい。


れっきとしたカワアナゴの仲間であるにも関わらず「チチブモドキ」とは何ともアイデンティティのない名前だと思っていたが(そもそも「カワアナゴ」自体がアイデンティティのない名前だが…)、確かに背中側の模様などがチチブによく似ており、一見紛らわしい場合もある。また好む環境も似ており同時に採集されることも多い。
飼育はいたって簡単だが、同種や近縁種間で激しく争うため単独飼育が無難である。また口に入る大きさのものなら何でも食べようとするため小型魚との同居はバケツキープ中であっても避けたほうが良い(筆者はこれで何度か悲しい思いをしました)

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カキ殻の間に潜む 和歌山県南部河川 -2.0m

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幼魚 27.2mmSL. 頭部の孔器列がよく観察できる。

 

camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000

 

 引用文献

明仁親王. (1967). 日本産ハゼ科魚類カワアナゴ属の 4 種について. 魚類学雑誌, 14(4), 135-166.