Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

春の広川でシロウオをいただく

先日、和歌山県中部を流れる広川の春の風物詩、シロウオ漁の体験に行ってきました

シロウオは透明な身体が特徴的な体長4cm前後の小さなハゼ科魚類です。北海道南部から九州までの広い地域に分布し、普段は海に生息していますが、春になると産卵のため川を遡上するサケなどと同じ遡河回遊型の生活史をもちます。古くから食材として利用されてきた魚であり、生きたままポン酢などに浸して食べる「踊り食い」が有名ですが、玉子とじやかき揚げなどでも賞味されます。かつては大量に遡上してきたことから各地に獲る文化と食べる文化が残されていますが、近年では多くの生息地で数が減ってしまっています。

シロウオ 和歌山県

紀伊半島では三重県志摩の磯部川、和歌山県の広川と太田川がシロウオ漁を行う河川として有名です。中でも湯浅町と広川町の間を流れる広川は遡上量も多く、毎年この時期に「シロウオまつり」という漁や踊り食いの体験をできるイベントを開催しており、今回お邪魔させていただきました。

ちなみに広川は川を挟んで右岸側が湯浅町、左岸側が広川町と自治体が異なっており、湯浅町側では現在も生業としてシロウオ漁を行っていますが、広川町側では地元の有志の方が保存会を立ち上げて主に観光目的でシロウオ漁を行っています。今回取材に訪れたのは広川町のほうなのですが、いずれ湯浅町側のほうも見学に行きたいですね。

シロウオを狙った漁法は日本各地で様々なものがみられますが、大別すると四手網を使った方法と簗(ヤナ)を使った方法に分けられます。紀伊半島では四手網方式が主で、広川でもやぐらを川岸に設置し、その上から竹を組んで作った約2m四方の四手網を川に沈め、シロウオの群れが泳いできたのを見計らってすくい獲るという方法で漁獲します。

四手網の周りには正方形に白いプラスチックの板が沈められており、ここを透明なシロウオの群れが泳ぐとシルエットが浮かび上がって視認しやすくなり、効率的に漁獲することができるそうです。また、四手網自体も網の周囲が細かい網地、真ん中が粗い網地の組合せで作られており、これは網を水から持ち上げたときにシロウオが水の抜けやすい中央付近に集まるようにしているためで、効率的に漁ができるよう様々な工夫がこらされているのだなと感心しました。
保存会の方にお話しをうかがうと、この漁、とても根気がいる漁法らしく、タイミング次第では何十分もシロウオが網の上を通らないこともあるそう。また、漁のピーク自体は早朝らしく、朝の6時から7時の間が勝負とのこと。昔は昼間でも上げ潮のタイミングでよく獲れたそうですが資源の減少に伴い、昼間にはあまり獲れなくなったとのことでした。

シロウオ漁体験ということで試しに四手網の操作をさせてもらったのですが、水の抵抗がかかって思った以上に網を持ち上げるのが難しく、一朝一夕では身につかない熟練のいる漁だと感じました。それでも1匹だけですが、シロウオを獲ることができました。獲れたシロウオは長いひしゃくで掬ったあと、やぐらに吊るしてある魚籠(びく)にキープします。

シロウオ漁体験後は、やはり料理としてもシロウオを食べてみたい!ということで湯浅町「海ひこ」さんにお邪魔しました。地元でも人気の海鮮のお店で、季節に合わせた魚のメニューを取り扱っており、この時期限定でシロウオ料理も提供されています。

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定番の踊り食いは初体験で、おっかなびっくりだったのですが、食感と、おそらく内蔵由来のほのかな苦みが癖になって美味しかったです。生きのいいまま口に運ぼうとすると暴れて顔にポン酢がかかりまくるのはご愛敬(笑)邪道かもしれませんが、ポン酢に入れてしばらくたって大人しくなったのを見計らって食べるとよいかもしれません。

卵とじとかき揚げは今回はイワシのシラスを使ったもの。実は今年はシロウオ漁の獲れ高があまり良くないらしく、そんなときはシラスで代用(?)しているそうです。これももちろん美味しかったですが、できればシロウオのものもいただきたかった!また来年の豊漁に期待です。最後の吸い物はシロウオで、これまた大変滋味深い味わいでした。

前述のとおりシロウオは全国で数を減らしており、今年は福岡県の室見川のようにシロウオ漁を休漁するような河川もありました。主な減少原因は言わずもがな、河川改修や浅海域の埋め立て等に伴う生息環境の悪化です。減少傾向は紀伊半島も変わらず、広川でも40年ほど前は一回の漁で2升ほど獲れたが、今は頑張ってせいぜい2合程度だとか、昔はシロウオが帯をなして遡上するのが川の上からでも見えたが、今はそうした光景は見られなくなったという声を聞きました。また、同じ和歌山県那智勝浦町太田川はさらに深刻な状況にあり、河口域の工事によりめっきりシロウオが遡ってこなくなり、漁自体が存続の危機にあるそうです。前述の福岡県室見川では不漁を受け、シロウオ資源再生のため産卵場の造成の取り組みをはじめたそうです。和歌山県では特に本種の保全に関する活動は行われていませんが、多自然川づくりなどの取り組みを含めた生物多様性保全策でシロウオを守ることもできるのではないでしょうか?

この素晴らしい漁撈・食文化がいつまでも残り続ける未来を祈ります。

 

セトウチサンショウウオ

セトウチサンショウウオ 和歌山県北部

先日はTwitterのフォロワーさんの案内で1年ぶりにセトウチサンショウウオの観察に行きました。

セトウチサンショウウオは、これまでカスミサンショウウオとして知られていた種であり、Matsui et al (2019)により西日本に広く分布するカスミサンショウウオには遺伝的に区別できる9種が含まれるとされ、近畿地方西部・中国地方東部・四国東部に分布する種はセトウチサンショウウオ Hynobius setouchiとして新種記載されました。

普段は山間の林床内で単独生活していて見つけにくいですが、冬から春に産卵のため湿地の止水域に集まり観察しやすくなります。今回は産卵状況の調査も兼ねての観察で、狭い範囲から7個体と卵塊1つが見つかりました。この場所では産卵シーズンはまだはじまったばかりのようです。産卵は夜間行われるとのことで、産卵中に半水面の撮影などしたら面白いかもしれません。

フォロワーさんの持ってきてくれた白バットを使って白抜き写真を撮ってみました(撮影後リリース)。この日は結構寒かったため動きは鈍いかと思いきや、バットの上では結構動き回るので撮影はちょっと大変でした。

稚アユの遡上はじまる

アユ 和歌山県南部河川 -0.5m

今年もアユが川に帰ってきました!

実は海での稚アユの撮影をしていた先週あたりからぽつぽつと川には入ってきているようでしたが、今週に入り本格的に加入がスタートしたようです。

撮影はお気に入りの和歌山県南部の河川の汽水域。普段は水が澄んでいるですが、この日はあいにく濁った潮が川の下層に入り込んでおり、懸濁物の多い環境下での撮影となってしまいました。濁った塩水の中では撮影にならないので、比較的澄んだ淡水側に泳いできたときに撮影しています。

 

アユ 和歌山県南部河川 -0.5m

アユ 和歌山県南部河川 -0.5m

見られるアユの大きさにはかなりばらつきがあり、身体がしっかり銀色を帯びるようになった60mm前後の個体もいれば、まだ身体が透明な30mmほどの個体も混じります。

大きな個体はともかく、未熟な、シラスのように透明な段階で川に入るのは内地のアユではほとんど知られていないのではないでしょうか?ちなみにここでわざわざ”内地の”と書いたのは奄美と沖縄島(在来個体群は絶滅)に分布する亜種リュウキュウアユはアユと比較して小型かつ若齢で河川に遡上することが知られているからです(岸野・四宮,2003)。アユの海洋生活期間の長さは海水温と密接に関係しており、水温が高くなるに従い短くなるとされています。これはアユが冷水系を起源とする魚であり、どちらかというと高水温が苦手なためです。リュウキュウアユでは低水温期の短い南西諸島の環境に適応するため、海洋生活期を早めに切り上げ、未熟な状態で河川に遡上するよう進化したと考えられています。

今回撮影したような未熟な状態で河川に遡上するアユ稚魚はこれまで知られていませんでしたが、これが単に今まで知られていなかっただけで従来からみられる現象なのか、あるいは近年になってから現れた現象なのかは不明です。もしも後者ならばその原因として考えられるのはやはり地球温暖化による海水温上昇でしょう。鈴木ほか(2014)は河川海洋結合モデルを用いた解析により温暖化によって河口付近の水温が現在より3℃上昇するとアユの遡上時期が1か月ほど早まってリュウキュウアユにように若齢・小型の状態で河川に遡上する可能性について考察しています。もっとも今回観察されたようなアユ稚魚がそうした地球温暖化の影響を受けた個体なのかどうかはなんとも言えませんが、今後も注目すべき存在なのは間違いないでしょう。

 

引用文献

岸野 底・四宮明彦.2003.奄美大島の役勝川におけるリュウキュウアユの遡上生態.日本水産学会誌,69:624–631.

鈴木靖・本間基寛・佐藤嘉展・道広有理・竹門康弘.2014.水温の将来変化がアユの遡上時期に及ぼす影響について.土木学会論文集B1(水工学),70:1213–1218.

オオクチユゴイ

オオクチユゴイ 和歌山県南部河川 -2.0m

紀南地方の河川で撮影したオオクチユゴイです。

本種は本州沿岸では典型的な死滅回遊の淡水魚で、通常、河川に加入した当歳魚はその年の冬のうちに寒さに耐えられれず死んでしまうと考えられていますが、近年の地球温暖化の影響か、筆者の観察した範囲でも紀伊半島の南部で冬越しに成功した個体をちらほら確認しています。ちなみに同属のユゴイもこの川には加入しますが、冬を越え生き残るのはオオクチのほうが多い気がしています。2種の間には低温耐性に差があるのかもしれません。

今年の冬は本当に寒く、特に1月24~25日の寒波では紀南地方でも積雪が観測されるほどでしたが、それでもたくましく生き抜いているようでした。なお、この場所は若干ながら汽水の影響があり、潮の満ち引きにより水底付近には海水由来の暖水が残るため、こうした環境も本種の生き残りに影響している可能性もあります。

 

camera : E-M1 markⅡ
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000