Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

不定期連載・標本写真シリーズ⑦ウイゴンベ

ウイゴンベ 83.9mm SL 和歌山県串本町

ウイゴンベ Cyprinocirrhites polyactis

分類:ゴンベ科 ウイゴンベ

分布:千葉県房総半島以南の太平洋岸、南西諸島、国外ではインド太平洋の広域から知られている。

備考:主に水深10m以深の岩礁域に生息。何かに着底していることが多いゴンベの仲間では珍しく、比較的強い遊泳性をもつ。和名は本種のホロタイプを採集した宇井縫蔵(『紀州魚譜』の著者で知られる)に因み、新種記載時の学名もCyprinocirrhites uiであったが、学名のほうはのちにCyprinocirrhites polyactisの新参シノニムであることが明らかとなり、現在はこちらの学名が用いられている。

不定期連載・標本写真シリーズ⑥ヤマユリトラギス

ヤマユリトラギス 90.0mm SL 和歌山県串本町

ヤマユリトラギス Parapercis kentingensis

分類:トラギス科 トラギス属

分布:相模湾以南の太平洋岸、南西諸島、台湾

備考:水深60~200mのやや深い砂礫底や岩礁域に生息。赤色を基調とする体色をもつトラギスは本種以外にハワイトラギスやホムラトラギスなど数種が知られるが、本種は鰓蓋上部に黒色斑をもつこと、体背側に8個の褐色鞍状斑をもつこと,頬部に1~4個の赤褐色点をもつことなどにより他種から識別される。

本種はかつてソマリトラギスParapercis somaliensisの名前で知られ、その名のとおりアフリカのソマリ半島沿岸からインド洋と日本を含む西太平洋の広域に分布する種と考えられていた。しかしRandall(2008)はこれまでP. somaliensisと考えられていた種に実際は4種が含まれることを示し、このうち台湾と南日本に分布する種をParapercis shaoiとして新種記載した。その後、Ho et al.(2012)はRandallが記載したP. shaoiのタイプ標本を再調査し、台湾南部から採集されたP. shaoiのパラタイプ標本の中に未記載種が含まれていることを示し、この種をParapercis kentingensisとして新種記載した。

したがって本種の学名はParapercis somaliensisParapercis shaoiParapercis kentingensisとややこしい経緯をたどって変遷していった。一方で和名“ソマリトラギス”は明らかに最初の学名somaliensisに由来しており、P. shaoi時代にもソマリトラギスの和名は使われ続けたが、本種は実際にはソマリア沿岸には生息していないため、P. kentingensisに対してソマリトラギスの和名を使うことはこの種の実態と名称に矛盾があるという点で混乱を招く恐れがあった*1。そこで松尾ほか(2018)は鹿児島県大隅諸島から本種を報告するとともに本種に対してヤマユリトラギスの新和名を与え、現在本種はヤマユリトラギスParapercis kentngensisとして知られている。

 

引用文献

Ho, H.-C., C.-H. Chang and K.-T. Shao. 2012. Two new sandperches (Perciformes: Pinguipedidae: Parapercis) from South China Sea, based on morphology and DNA
barcoding. The Raffles Bulletin of Zoology, 60: 163–172.

松尾 怜・松沼瑞樹・本村浩之・木村清志.2018.トラギス科魚類ヤマユリトラギス(新称)Parapersis kentingensisの日本における記録.魚類学雑誌,65:27–34.

Randall, J. E. 2008. Six new sandperches of the genus Parapercis from the western Pacific, with description of a neotype for P. maculata (Bloch and Schneider).The Raffles Bulletin of Zoology supplement, 19: 159–178.

*1:ちなみに種小名kentingensisは本種のタイプ産地である台湾南部の墾丁(ケンティン)に由来する

不定期連載・標本写真シリーズ⑤ホシノエソ

ホシノエソ 166.3mm SL 和歌山県串本町

 

ホシノエソ Synodus hoshinonis

分類:エソ科 アカエソ属

分布:千葉県房総半島から高知県若狭湾島根県沖、小笠原諸島、九州北西岸

備考:やや深場の砂泥底に生息。アカエソの仲間は表徴形質に乏しく分類が混乱しているグループであるが、本種は鰓蓋上部に黒色斑をもつことにより、同属他種から容易に識別される。和名はこの黒斑を星に見立てたことに由来する・・・と思いきや、実際には本種の模式標本を採集した和歌山県有田郡の星野伊三郎氏の名前に因む。他のエソ科魚類と同様、練り製品等の材料になると思われるが、まとまって獲れることが少ないため、水産上流通することはほとんどない。本標本は串本町沖の水深70mから釣獲された。

ビワマスの産卵床作り

ビワマスのメス 琵琶湖流入河川 -0.3m

11月も後半に差しかかりビワマスの遡上数も少なくなってきたため、今年のビワマス撮影も終わりにしたいと思います。今年も産卵の瞬間を追い求めての琵琶湖通いでしたが、なかなかタイミングを合わせきれずにシーズン終了となってしまいました。

写真は産卵床を掘る大型のメス。この個体は前日の日没ごろに見かけた段階でペアになっていてすでに産みそうな気配もあったのですが、暗くなってきたこともあり、産卵は翌日に持ち越すだろうと思って次の日の朝に再び川に入ってみるとすでに産んだ後だったのか、ペアは解消され、お腹もわずかに凹んでしまっていました。すでに一度産卵という大仕事を果たしたばかりなのにもかかわらず、すでに新たな産卵床を作り始めているのには驚かされます。メスは数回に分けて卵を産んだのちその生涯を終えます。

 

camera : OM-1
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
strobe:D-200, Z-240