Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

ウシモツゴ

三重県中部 -0.5m 6月

三重県中部で撮影したウシモツゴです。本種は岐阜県、愛知県および三重県のみに分布する東海地方の固有のモツゴの仲間で、かつてこれら3県の平野部一体で広くみられたようですが、近年では河川改修等に伴う生息環境の悪化、外来魚による捕食、そして同属のモツゴの移入による交雑などにより生息水域および生息数が急速に減少しており、現在安定した生息地は10か所に満たないとされています。
本種は前述のとおり東海地方固有種なのですが、その分布の南限は中央構造線を越え紀伊半島のエリアに入ります。つまり弊ブログのテーマである「紀伊半島の魚類」を理解する上で避けては通れない魚のひとつということで、以前から撮影に行きたいと思っていたのですが、今回ようやくその機会が訪れました。
今回撮影を行ったポイントは丘陵部の小さなため池でした。自然度が高く雰囲気は抜群なのですが、池自体は植物プランクトンの繁殖せいか透明度が低く、さらに池の底には泥や腐植質が深く堆積しており、わずかに動いただけでまき上がって視界が失われるという撮影には非常に厳しいコンディション。おまけに肝心のウシモツゴの数が非常に少なく…というか今回見つけられたのはわずか1個体のみでした。定期的に個体数を数えているわけではないので確かなことは言えないのですが、池全体をかなり探した上でわずか1個体しか見つからないのはきわめて危機的な状況に思えます。本種は生息場所として湧水や伏流水の流入する環境に依存している可能性が考えられており(向井,2016),こうした湧水などが一見して確認できないこの池は本来、ウシモツゴの生息にあまり適さない環境なのかもしれません(あるいは落ち葉や水草の枯れたものが堆積し環境が悪化した可能性も考えられます)。

ちなみにやっとの思いで見つけたこの個体は非常に憶病で、カメラから身を隠すように枯れ枝の後ろにぴったりと寄り添った後、すごい勢いで飛び出してどこかに逃げ去ってしまいました。撮影には60mmマクロを使用したのですが、身体全体を写すにはもう少し焦点距離の短いレンズを使ったほうが良かったでしょう。今回はアプローチやレンズの選択ミスもあり残念ながら証拠写真程度の撮影にしかならなかったですが、いつか全身を写しとめた美しい写真を撮影してここで紹介したいと思います。

今回撮影したのはオス個体。口元の追星がよく目立つ

引用文献

向井貴彦.2016.岐阜市における歴史遺産としての絶滅危惧種ウシモツゴ.岐阜
大学地域科学部研究報告,39: 41-45

 

camera : E-M1 markⅡ
lens :  M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
strobe:D-200, D-2000