ホウライヒメジ Parupeneus ciliatus
紀伊半島での呼び名:めんどり、おじさん
分布:房総半島以南の太平洋岸、南西諸島および小笠原諸島。国外ではインド洋から西太平洋まで広域分布する。
生息環境:岩礁帯や内湾、藻場など。幼魚はタイドプールによく出現し、河川汽水域にも侵入する。
形態:身体はやや細長く、体高は第一背鰭の起部で最大となる。下顎に2本のヒゲをもつ。背鰭は2基、身体と頭部のほとんどが薄く大きな鱗でおおわれる。体色は個体や状態によって変化が激しいが、身体の地色は赤~褐色。頭部から体背側の前半にかけて2-3本の明色縦帯をもつことがある。尾柄部に暗色の鞍状斑をもち、その先端は側線を越え尾柄の下半部に達する。
同定:同属のオキナヒメジおよびミナベヒメジに酷似するが、オキナヒメジとは尾柄部の鞍状斑の先端が側線を越えること(vs. 尾柄部の鞍状斑の先端は側線を越えない)により識別される。またミナベヒメジとは下枝鰓耙数が 23–27(最頻値25)であること(vs. 下枝鰓耙数は 20–23(最頻値21))、尾柄部の鞍状斑は明瞭な個体が多いこと(vs. 尾柄部の鞍状斑は目立たない個体が多い)などにより識別される(田代・本村,2015)
採集:たも網で採集できるが、泳ぎが素早いため捕るのは難しい。中型以上の個体は釣りでも狙える。
備考:紀伊半島沿岸には数種のウミヒゴイ属魚類が分布するが、本種はその中でもっとも見かける機会が多い代表的なもの。紀伊半島沿岸では本種を含むウミヒゴイ属魚類は伝統的に“めんどり”と呼ばれてきたが、近年“おじさん”という呼び名が浸透してきている*1。食用魚としても知られ、派手な外見に似つかず、上品な白身で非常に美味、特に皮目に好ましい風味がある。近年市場での評価が高まっている魚のひとつ。またダイビングで見かける機会も多く、ダイビングスポットとして著名な和歌山県の串本では冬場に岩礁帯に集合する本種の様子が名物になっている。
ヒメジの仲間といえば下顎の2本のひげが特徴的であるが、このひげには匂いや味を感じる味蕾という器官が集中して分布しており、餌を探す際のセンサーの役目を果たしている。潜水して観察していると、ひげを盛んに動かして水底の餌を探す様子が見られる。
本種は基本的には海水魚であるが、幼魚を中心に河川汽水域に侵入することがある。もっとも川に好んで入ってきている、というわけではなくどちらかと言えば内湾の延長のような感覚で出現するように思う。汽水域の中でも海よりの塩分の高い場所に多く、低塩分の場所や淡水域には出現しないようだ。
引用文献
田代郷国・本村浩之.2015.鹿児島県初記録のヒメジ科魚類ミナベヒメジ Parupeneus biaculeatusおよびホウライヒメジ Parupeneus cilliatusとの形態比較.Nature of Kagoshima, 41: 133–137.
*1:同属のオジサン Parupeneus multifasciatusの標準和名であるが、もともとは関東地方でのウミヒゴイ属魚類の地方名