Fishes of Kii Peninsula

紀伊半島のさかな

不定期連載・標本写真シリーズ⑬アカホシキツネベラ

アカホシキツネベラ 137mm SL 和歌山県

アカホシキツネベラ Bodianus rubrisos

分類:ベラ科タキベラ属

分布:伊豆半島以南の太平洋岸.国外では紅海,インドネシア,オーストラリア北岸,フィリピンおよび台湾から知られる(Baranes et al., 2017).

備考:深場系のベラを多く擁する一大グループ,タキベラ属の一種.水深35 mより深い岩礁域に生息する.本種はスジキツネベラ B. leucosticticusと長らく混同されていたが,胸鰭基部に赤色斑があること(vs. 黒色斑がある),やや体高が高く体高/体長の比は36.3–37.6%であること(vs. 31.2–34.3%)などによって識別される(Gomon, 2006).

本種の種小名”rubrisos”はラテン語のrubri-「紅色の~」と”SOS”を組み合わせた造語で,本種の体側の赤い点列模様がSOSを意味するモールス信号(・・・― ―― ・・・)を連想させることに因み,全体で「紅の遭難信号」を意味する*1.本標本は和歌山県串本町沖の水深115 mからクロオビスズキ Liopropoma lemniscatumとともに釣獲された.

 

引用文献

Gomon M.F. 2006. A revision of the labrid fish genus Bodianus with descriptions of eight new species. Records of the Australian Museum Supplement, 30: 1–133.

Baranes A., R. Fricke, D. Golani and B. A. Golani. Record of Bodianus rubrisos Gomon, 2006 from the northern Red Sea, previously misidentified as B. leucosticticus (non Bennett) or B. trilineatus (non Fowler) (Labridae). Cybium: International Journal of Ichthyology, 40: 281–286.

*1:※なんという卓越した命名センス!!

ビワマスの稚魚

ビワマスの稚魚 琵琶湖流入河川 -0.3m

昨年生まれのビワマスの子供たちがそろそろ成長してきているころかな?と思い、昨年秋に親魚の撮影をした川を覗いてきました。

流心は雪解け水と最近の長雨でかなり流れが速かったのですが、岸際の流れのゆるやかな植生の周りで群れている体長3 cmほどの稚魚たちを発見。無事に孵化して成長できているようです。観察していると、群れながらも、すでにゆるやかな縄張り意識をもっているようで、体の大きな稚魚が餌の流れてきやすい一番いい場所を陣取り、ほかの稚魚を縄張りから追い出す様子も見られました。

これから暖かくなるにつれて、大きくなった稚魚から琵琶湖に降るものと思われます。多くのサケ科魚類では降海型の個体で体側のパーマークが消失し銀白色を帯びるスモルト化(銀毛化)が起こりますが、ほかのサケの仲間では河川内でスモルト化してから降海するのに対し、ビワマスではパーマークが明瞭に残った状態で降湖し、降湖後に急速にスモルト化するという違いあることが知られています。このようにビワマススモルト化の時期がほかの降海性のサケ科魚類と異なる要因はビワマスが河川と湖の間で回遊し、淡水内でその生活史を完結するという生態を獲得したことと深く関連していると考えられています(藤岡・伏木,1988)。

 

引用文献

藤岡康弘・伏木省三.1988.ビワマス幼魚の降河と銀毛化.日本水産学会誌,54: 1889–1897.

ホンモロコの産卵2024

ホンモロコの群れ 琵琶湖 -0.5m

昨年11月末のアユの撮影以降、まったく川に潜らない日々が続いていたのですが、先日ようやく今年初めてとなる水中撮影で琵琶湖に行ってきました。狙いは桜の咲くこの時期、婚姻色と産卵のピークを迎えるウグイ…だったはずなのですが、目当ての川に行ってみると残念ながらウグイの姿はほとんどなく、代わりと言っては何ですが昨年もホンモロコを撮影したとある川を覗いてきました。

昨年の同時期に比べると数はやや少なかったですが、今年もちゃんと遡上してきていて一安心でした。本種は粘着性の強い卵を産み、湖内では岸際のヤナギの根に産卵するとで有名ですが、この場所では石積みの間に産み付けているようで、しきりに石の間に出たり入ったりしていました。

近年、琵琶湖ではホンモロコの資源量が回復傾向にあり、産卵場所も増えてきているようです。とめどない開発や外来種の脅威など、暗い話題の続く日本淡水魚界において、珍しい明るいニュースと言えるでしょう。一方で長年の漁獲量の低迷でホンモロコを食べる文化が薄れてしまい、食材としての需要が戻らないという新たな課題も生まれているそうです。

 

camera : OM-1
lens : M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
strobe:D-200, Z-240

不定期連載・標本写真シリーズ⑫クロホシイシモチ

クロホシイシモチ 72.3 mm SL 和歌山県

クロホシイシモチ Ostorhinchus notatus (Houttuyn, 1782)

分類:テンジクダイ科スジイシモチ属

分布:千葉県以南の太平洋沿岸,琉球列島,フィリピン,パラオニューカレドニア

備考:沿岸の岩礁域や藻場に生息する普通種.同じく沿岸浅所でよく見られる同属のネンブツダイとしばしば混同されるが,本種は体背側に縦帯がなく,代わりに後頭部に麻呂眉のような黒点があること,体の地色は暗い褐色であることによって識別される.ネンブツダイと比較すると熱帯性が強く,ネンブツダイ琉球列島では稀なのに対し,本種は琉球列島でもしばしば見られる.テンジクダイ科魚類はメスが産んだ卵をオスが孵化するまで口内保育することで有名で,本種も同様の生態をもつ.